眼球は直径24ミリメートルの球体で,鼻の付け根の両側にある眼窩という窪みに収まっています。
下の写真は,眼球の模型で,右の眼球を真上から見たものです。
この写真では中央部に水色に見える直径約20ミリメートルの硝子体があります。
眼科のお医者さんたちが,「世の中にこれほどまでに透明な物体があるのだろうか」と口を揃えて自然の神秘を語られるあの硝子体です。
網膜は,この硝子体の表面を覆っています。
この写真でいいますと,球体の上から3分の1ぐらいのところから下部のすべてを覆っているのです。
網膜は,硝子体のすぐ外側にある膜であることはわかりました。
では,この網膜の外側には何がありますか?
そうですね。網膜のすぐ外側には脈絡膜(臨床的には,ブドウ膜と呼ばれることが多いです),そして,その外側には,いわゆる白目といわれる強膜があります。
なお,強膜と角膜を合わせて眼球線維膜,脈絡膜と毛様体,虹彩を合わせて眼球血管膜,網膜を眼球内膜と呼ぶこともあります。
医学の学習を難しくしている一つの原因として,一つの物を表現するのに,いくつかの呼び方があることです。ここで取り挙げたそれも,その一例です。
網膜は,硝子体のすぐ外面にある膜であることは,もうすでにご記憶いただいたかと思います。
厚さが0.2〜0.3ミリメートルぐらいですから,ちょうど,ティッシュペーパー1枚ぐらいの厚さです。
眼科のお医者さんは,「ティッシュペーパー1枚を水に濡らしたような感じだ」といわれます。
ただ,網膜がティッシュペーバーと異なるところは,感光する前のスチールカメラのフィルムなどと同じように透明な膜だということです。
また,網膜は大きく分けると,硝子体側にある感覚網膜と,脈絡膜側にある網膜色素上皮の2層から成っています。
更に詳しい説明をしていきたいと思いますが,項を改めたいと思います。
網膜は,厚さがわずか0.2〜0.3ミリメートルであることは書きましたが,光学顕微鏡を使用して調べてみますと,網膜色素上皮を含めて以下の10層からできていることがわかります。
外側から順に,網膜色素上皮層,視細胞層,外境界膜,外顆粒層,外網状層,内顆粒層,内網状層,神経節細胞層,神経線維層,内境界膜です。
外界から網膜に照射された光は,硝子体を通過した後,内堺界膜側から網膜層を透過し,視細胞層にある錐体視細胞と杆体視細胞に到達することになります。
ここでは,双極細胞という用語は出てきませんでしたが,網膜の機能について理解する時には,網膜の硝子体側から,神経節細胞層→双極細胞層→視細胞層の3層があることだけをご記憶くだされば結構です。
網膜は非常に薄い組織でありながら10層もの層構造を成していることは理解できました。
それでは,網膜にはどのような神経細胞があるのでしょうか。
大別しますと,視細胞(錐体細胞と杆体細胞),双極細胞,水平細胞,アマクリン細胞,神経節細胞の五つの神経細胞が存在します。
光は視細胞で電気信号に変換され,その信号(情報)は化学シナプスを介して双極細胞と水平細胞に伝達されます。双極細胞はアマクリン細胞や神経節細胞とシナプス結合しており,神経節細胞の軸策が視神経として大脳の視覚中枢まで情報を伝達しています。
上記の説明を理解していただくには,用語の説明をしておいた方が良いかと思いますので,少し,そのための項を設けてみたいと思います。
まず,神経細胞ですが,ニューロンと呼ばれることの方が多いかも知れませんので,その用語も記憶しておきましょう。
ニューロンですが,そのイメージとして,畑に植えられている玉ネギを想像していただけませんでしょうか。
それを畑から引き抜いたとしますと,玉ネギの本体,その下の毛根,そして地上に伸びている茎の部分からなります。
玉ネギの本体の部分が神経細胞体,そして下に出ている毛根の部分を樹状突起(情報の入口),地上に出ている茎の部分を軸索突起(情報処理後の出口)となっています。
次に,シナプスについて説明してみましょう。
シナプスとは,ニューロンとニューロンの接合部をいいます。
一つのニューロンが次の1個のニューロンとだけつながっているかというと,そんなことはありません。
上記の樹状突起の数が玉ネギの毛根のようであり数が多いこと,軸索突起の先端も分岐していることから,多くのニューロンとつながっているのです。
また,この接合部には,少しだけ隙間があります。これをシナプス間隙と呼びます。従って,この部分は電気信号が伝わることができず,必ず化学伝達物質の分泌によって伝達されています。
丁度,このシナプスは,ヒトとヒトとの関係に似ていると思われませんか。
Aさんは,1000人の知人がいます。Bさんには,2000人の知人がいました。Cさんには,5000人の知人がいます。
上記のAさん,Bさん,そしてCさんの知人どうしでも互いに知っている人はいます。
まったく話は脱線しますが,現在,このホームページを公開しているプロバイダーは,鹿児島市に本社がある「シナプスインターネットサービス」というところです。
インターネットを介して,世界の60億人以上の人々と情報をやり取りできる可能性がある訳ですので,何だか神経系のシナプスと重なるところがあって面白いなあと思っています。
話を戻しますと,これまで自転車に上手に乗ることができなかったのに乗れるようになったとか,パソコンのキーボードを速く叩けるようになったなどというのは,このシナプスの接合部が増加したことを意味しているのです。
例え話を含めながら説明いたしましたが,ご理解いただけましたでしょうか。
網膜には,5種類の神経細胞があることがわかりましたが,そのうち,視細胞について教えてください。
視細胞は,網膜の光感受性受容器,すなわち,光刺激を電気信号に変換する部分である杆体(桿体)細胞と錐体細胞の二つに分けられますが,網膜上において,その分布は異なります。
すなわち,明るい場所で働き,明所視をつかさどり,しかも色覚のある錐体は中心窩(網膜の中心部)に多く存在しており,その密度は中心窩から離れると速やかに減少します。
一方,杆体は中心窩を取り巻くように網膜周辺部に多く存在し,暗い場所で働き,暗所視をつかさどります。
現在,注目されている「再生医療」の対象となるのが,この視細胞と網膜色素上皮です。
網膜は,感覚網膜と網膜色素上皮に大別されることはすでに述べました。
網膜色素上皮の直ぐ外側には,血管に富む脈絡膜がありますが,ここから感覚網膜に対して栄養を与える役目です。
もう一つが,前にも書きましたが,感覚網膜は,透明な膜のため,網膜にあたった光によって乱反射を起こさないように,その奥にある網膜色素上皮の色素によってそれを防いでいるのです。
そうですね。現在,多く使用されているデジタルカメラではなく,従来から使用されているスチールカメラに例えてみましょう。
まず,スチールカメラでは,硝子体の部分は,何もなく,空気だけです。
次に,網膜に相当するのがフィルムです。
そして,脈絡膜に相当するのが,いわゆる暗箱といわれる黒い箱の部分で,レンズ以外の部分から光が入らないようになっています。
最後に,強膜に相当するのは,カメラのケース,そのものです。
このような説明でおわかりいただけたでしょうか。