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医療法人 碧山会 朝沼クリニック
理事長 朝沼 榎

〒894-0017 奄美市名瀬石橋町7−1
電話 0997−55−1555 FAX 0997−55−1556

ハブ咬傷
ハブ咬傷の治療
T:はじめに
U:ハブの特徴
V;ハブ咬傷の歴史(現在迄の約100年間)と現状
W;ハブ咬傷症例のレトロスペクチィヴな検討
X;ハブ咬傷症例のプロスペクチィヴな検討
Y;切開(筋膜切開)
Z;ハブ毒抗血清
[;ハブトキソイド
\;ハブ咬傷治療
];最後に
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T:はじめに
ハブ咬傷は外科学または救急医学では中毒症に分類される。治療法としては第一に体内よりハブ毒の排泄、第二に弱毒化あるいは無毒化である。第三に特別なこととしてショックに対する治療である。また重篤性やいろいろな症状は咬まれた体内の場所及び注入された量と深さに左右される。
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U:ハブの特徴
 1、ハブ毒と他の毒蛇との比較
奄美大島と加計呂麻三島と徳之島ではハブとヒメハブとヒャンとハイとガラスヒバ(本土のやまかがし類似)の5種類の毒蛇がおり、宝島と小宝島にはトカラハブが生息している、なお先島諸島(石垣島)にもサキシマハブがいるが、これらの毒蛇の中で咬傷例も多く致命的なものはハブで、抗ハブ毒血清のみが造られている。ヒメハブ(卵生)を奄美大島ではマムシと呼んでいるが、本土のマムシ(胎生)とは違う蛇である。
毒性因子と毒作用について、沢井芳男の論文によるとハブ毒の特性は強い腫れと毛細血管の破綻による出血とそれに伴う筋肉の壊死で死因は急性の循環障害によるショックが多いと述べている。ハブ毒を4つの因子に分け、因子1は腫脹を起こす因子、因子2はHRー1(出血因子)とHRー2(出血因子)に分けられ、因子3は蛋白分解酵素(筋壊死)とホスホーリパーゼA2(筋壊死)、因子4は他の残り全てに分類している。
ヒメハブ毒は毒性が弱く、筋壊死の心配もない。抗毒素の注射の必要は無く、血清は製造していないが、症状が極めて強い場合はハブ毒抗毒素を代用している。理由はハブ毒と共通する酵素が証明されている。
本土のマムシはハブに比べると毒性が強い割には致命率がひくく、壊死が起こりにくい。症状は腫脹と皮下出血である。時に急性の循環障害やリンパ管炎をおこす。死因は1週間前後の急性腎不全が多い。出血因子は致死性が強く、蛋白分解酵素作用を示す。他に神経毒性因子も認められている。
(表1)はハブ類及びマムシの毒性の比を示したものである。
 2,ハブの歯牙の特徴
毒注入の量の差は歯牙の毒排泄孔の開口部の特異的な位置が関係する。写真は奄美観光ハブセンターの中本英一氏より提供されたハブの歯牙の写真である。全長は約4〜5cmで毒腺の導管はその中を通り、その歯牙の先端より3〜4mmの所に毒の排泄孔が開口している。(写真1)
咬傷部位や咬傷の方向や衣服の状態により体内に大量の毒が入らないことや全く入らないこともある。
また毒の採取では両方の毒腺より合計約1ccの毒液が採取される。採取後20日間前後で採取前の状態に戻る。採取において1ccは約18滴前後で、初回の咬傷の際1?2滴注入される。臨床例で、飯場で連続して4名が咬傷を受け、4名とも同様に重傷であった。このことより牙咬による排泄量は特に変化がないものと思われる。また臨床例としてハブ取りをアルバイトとしている若い男性が、真夜中に市内の中心地から搬送された、不思議に思い事情を聞いてみると、取ったハブをダンボール箱に入れて、自分の部屋に運び、すぐ入眠したとのこと。就寝中に腕に痛みを覚えたので、目を醒まし、枕元にいたハブを再度捕まえたとのことであった。本人は2個の深い歯牙痕があるにもかかわらず、症状が軽くすぐ退院となった。最初ハブを捕まえた時にハブの首を絞めたために、毒腺の毒が大量に放出されたので、咬傷時に毒が体内に大量に入らなかったことが軽症ですんだ理由と考えられる。
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V;ハブ咬傷の歴史(現在迄の約100年間)と現状
ハブ咬傷は有史以前よりあったと考えられるが、調べることができた明治以降について(表2)に示す。ハブ咬傷の発生状況を振り返って見ると、明治時代後半は年平均230名で死亡率は12%である。大正時代は年平均250名で死亡率は5%である。死亡率が極端に減った理由としては抗ハブ毒血清の使用が広まったことが充分に考えられる。昭和に入ると、戦前は年平均260名で死亡率は2%で大正時代より減少しているが自動車や船の発達により血清注射や治療施設に速やかに搬送されたものと考えられる。終戦後は年平均320名で咬傷数が増加し死亡率も3%とやや高くなっているが、これは農林作業従事者が増えたことや、米軍に占領されたため血清が入手しにくくなったことが原因と考えられる。昭和の半ばは年平均270名で死亡率が0.8%以下となっているが交通網(道路など)の整備と交通手段の発達によるものだと考えられる。昭和の後半は咬傷数の年平均が193名となり減少している。昭和63年に2名が死亡しているが、以後死亡者数は0である。この2名の死亡も病歴より運悪くハブ毒が血管に大量に入ったのが原因と考えられる。平成に入ってからは咬傷数も半減し年平均98名前後で死亡率は平成9年迄0%である。
不具率は救命された者で、関節などの拘縮等や四肢の切断を受けた者の割合であるが、極端に減少が見られないのは、筋壊死により障害が残ることが原因と考えられる。昭和47年以降は咬傷者が各地に離散し調べられなかった。(写真2、3)
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W;ハブ咬傷症例のレトロスペクチィヴな検討
 昭和62年前後の県立大島病院で治療した79例について検討してみると咬傷後1時間以上経ってから血清を注射した者は入院期間が長くなり一ヵ月以上から数カ月の者もいる。そのうえ関節の拘縮などの高度の機能障害が見られる。一人は手を肩関節から切断されている。
咬傷部位は手が約半数を占め、次いで足、下肢と続く。(表3)
感覚障害を含む機能障害は79例中13例(16%)に認められ、関節の拘縮は9例(11%)であった。
 咬傷後咬傷部位を中心に黒ずんだ腫れ(腫脹)がみられるが、腫れが止まるまで期間(腫脹停止日数)とし、牙痕数で別けてみると(表4)、牙痕数2個以上では毒が多く注入されたと考えられるが、腫脹停止日数に極端な差はみとめなかった。それで同量のハブ毒が入ったと臨床的に考えられる24例の腫脹停止日数(腫れが止まるまでの期間)を調べてみた。牙痕数1個では腫脹停止日数が逆転しているが、牙痕数2個以上で30分以内に血清を打った12例の平均腫脹停止日数は4.3日で、30分以上60分以内の12例の平均腫脹日数は7.1日となった。牙痕数2個以上では確実に毒が注入されたと考えられるため、明らかに30分以内に血清を打った者がハブ毒の影響が少ないことが分かる。これは早いほど血清が血流に乗りハブ毒に到達できるため。時間が経つと注入されたハブ毒の周囲に不可逆の変化が起き、血管が閉塞され、血清が到達できなくなり、中和剤としての効果が期待できなくなることが考えられる。
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X;ハブ咬傷症例のプロスペクチィヴな検討
ハブ咬傷による侵襲と生体の反応を明白にする目的で平成3年に(表5)のプロトコールをつくり臨床例6例の検討を行なった。
その一つ目は、包交時に滅菌スポンジを使用し、創部に直接あて、再包交時に摂子にてスポンジを絞り滲出液を採取し、滲出液中のハブ毒を測定した。ハブ毒は沖縄県公害衛生研究所の野崎真敏先生に依頼しエライザ法(酵素抗体法)にて測定した。表7に結果を示す。6例中3例の滲出液にハブ毒が測定されたが、24時間以降にはハブ毒は滲出液中には証明されず、ほとんどが数時間内にハブ毒を認め、平均が20~40単位であった。しかし一例だけ筋膜切開時に6000単位と極めて高値を認めた。これは筋膜切開が非常に有効であった結果と判断されるが、いかに初期治療としてのハブ毒の吸引と筋膜切開が非常に重要であるかを指し示していると考えられる。報告によれば体内に入ったハブ毒は1日経つと3/4以上が代謝され、2日目にはほぼ全量が代謝される。
二つ目はハブ毒には筋肉の壊死作用があり、高度の機能障害を呈す原因となる。さてハブ毒の作用による筋肉の壊死の状況をCPKとミオグロビンを経時的に採血することで類推してみた。なおCPK-MMも同時に測定した。表8に結果を示す。CPKの大部分がCPK-MMであるので骨格筋の壊死と断定できる。
心筋梗塞も心臓の筋肉の壊死を起こすが、筋肉の破壊により筋肉組織より血中に流れ出すCPKを測定することにより、心筋梗塞の重症度と予後(将来にわたる病気の経過)を予測している。(図1)
このCPK測定をハブ毒の筋肉壊死に適応してみた。来院時よりCPKを数時間おきに採血し、その結果をコンピュウターでシュミレーションしたものが図2から図7である。(図24)が咬傷後1時間以内に血清を注射したもの、(図)が咬傷後1時間以降に血清を注射したものであろ。(図2)で分かるようにピークが数時間後に訪れすぐ減少していますが、ところが(図56、)ではピークが48時間後に訪れている。(図57)ではCPKの単位も10倍以上で、シュミレーションによる量(体積)も100倍以上も違う。すなわち咬傷後血清注射までの時間が1時間を境にハブ毒の中和作用が100倍も違うと言うことになる。
(図8)では一時間以内の3例と一時間以上の3例の筋壊死量を比べてみたもので、違いが一目瞭然である。
このことより血清注射は早ければ早いほど筋壊死が少ないことになる。
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Y;切開(筋膜切開)
筋膜切開は病院で行なう初期治療である。医学用語で切開とは摘出(取り出すこと)や切除(切り取ること)あるいは排膿(うみを体外にだすこと)あるいは減張(圧迫による血流障害などを除くこと)の目的で行う手術であるが、筋膜切開は減張切開で筋肉の筋圧(筋肉の圧力)の解除を目的としたものである。明治以前より民間療法として乱切(開)が行なわれていたが、捜し得た文献では昭和5年に徳之島の伊東 順七が『飯匙蛇咬傷の予防法及び救急療法に就いて』を発表している。主として切開と切断について論じてある。
ここでは重要と考えた筋膜切開について説明する。筋肉は筋膜で全周が覆われ両端は腱で終わっている。まず歯牙痕の深さと方向を確認し、切開の場所は歯牙痕の場所で、切開数は歯牙痕の数だけ行う。しかし毒が注入されていないと観察される牙痕は切開しない。
皮下の深さまでしか毒が入っていると思われる場合でも、筋膜を一部切開して筋肉内に毒が達していないか確認することが必要である。皮膚の切開の方向としては縦切開を用いる。縦切開とは体軸方向の切開で、神経や血管などや関節などへの影響が少なく、筋肉の方向も体軸方向が多いので筋膜切開も同方向でできる。筋膜切開をすることで少しでも直接の体外排出をすすめ、筋圧を減少させ、血流障害を改善し、不可逆の組織の変化を抑え、ハブ毒抗血清を毒まで届くようにし、筋肉の壊死を防ぐことを目的とする。直接ハブ毒の排泄もするが、同時に組織間隙に貯まっているハブ毒の影響による体液を体外へ排出しやすくする。
病院まで1時間以上かかるようであったら、搬送中でも歯牙痕の場所を皮膚および皮下の黄色の脂肪組織までの切開を勧める。目的はハブ毒の排泄であり、勿論切開後は毒の吸引を続ける。
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Z;ハブ毒抗血清
 (写真4)に示すのが乾燥はぶウマ抗毒素で、ハブ咬傷時に使う(抗ハブ毒)血清です。この血清は最初北里柴三郎の研究所で明治37年に造られている。そして翌年より奄美大島で実地に臨床使用されている。近年では財団法人化学及血清療法研究所(熊本市)の好意で造られ、奄美・沖縄地方の我々はその恩恵に属している。今では製造過程も四工程増え、より精製され、質も向上し(以前は抗ハブ毒血清以外の成分も多くふくまれていた)、血清病も減少している。血清病とはウマの血清を使うために起こるウマの異種蛋白と人体とのアレルギィー反応で、以前調査した79例中14例(17.7%)に発症している。重篤なものとしてアナフィラキシィーショックの4例(5%)で、他は軽症で中毒疹や肝機能障害や掻痒や発熱や喘息や浮腫などであった。血清を使用した場合は血清病の予防・チェックのため一週間程の入院が必要である。
(写真4)の1バイヤル(本)の血清の量の決定は、ハブ毒をネズミに静脈注射して、心毒性により死亡するハブ毒量を中和する抗ハブ毒血清の量の体重あたりの量を人間に換算して決められている。ハブ毒は一つのもの(成分)ではなく、数十種類の酵素より構成されている。その数十種類のそれぞれが人体に悪影響を起こすが、例えば心臓に悪影響するもの(心毒性)や出血させるもの(出血毒)などで、全てについてはまだ解明されてはいない。しかし沖縄県では通常2バイヤル使用しているという。我々もハブ毒が大量に注入されたと考えられるものには2バイヤル使用しているが、特別な副作用は認めていない。
乾燥はぶウマ抗毒素は数十種類の酵素の中の出血毒や心毒性の酵素を主に中和作用をするもので、他の酵素には作用しない。それ故初期治療としては毒の体外排泄も目的とした切開(筋膜切開)も重要で、血清注射と共にハブ咬傷治療の両輪となるものである。
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[;ハブトキソイド
 ハブ咬傷に対する予防薬としてハブトキソイドがある。これはワクチンでワクチンと同じ作用で予防する。理論上は期待がもてるが、現在臨床評価の調査中と聞いている。しかし咬傷数が激減しているので結果が出るまでにはかなりの期間がかかると思われる。

\;ハブ毒インヒビター(ハブ毒阻害因子)
ハブ毒阻害因子またはハブ毒インヒビターとよばれ新しい治療法として期待されているものです。現在開発中で鹿児島県が大きな予算を組んで支援していると聞いている。
ハブがお互いに咬み合っても筋肉の壊死などを起こさないことより、ハブ自身がハブ毒を無毒化するもの(インヒビター)を持っているに違いないということで、精製されたものをハブ毒インヒビタアーと言う。これを抽出ないし製造して薬剤とする。これを咬傷患者に使用し、ハブ毒を中和し無毒化を図るものである。ハブ毒は数十種類の酵素より成っているので、全てを同定してからそれぞれに対する反応をを見つけださねばならず、長い期間と莫大な費用がかかる。ハブ毒に対する全てのインヒビターが判明したなら筋肉の壊死も防げる可能性がある。これぞ21世紀の治療薬といえよう。
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\;ハブ咬傷治療
1,"本当に本物のハブにかまれたのか"
 私は第一線でハブ咬傷の治療に携わっているが、一番大事なことは本当にハブにかまれたのかどうかである。救急車で搬送されるのが多いが、そのほとんどがハブを知っている、なかにはハブを殺して持参するものもいる。咬傷後は動き回ることは危険であるので、ハブの確認だけにとどめるよう指導している。反対にハブの区別がつかないものもいる。また時にはむかでなどの咬傷が疑われるが、ハブに咬まれたと搬送されるものもいる。
アメリカや台湾やブラジルなどでは毒蛇が多く、それぞれに対する血清があり、毒蛇がはっきりしないことには治療ができないこともあると聞いている。奄美大島と加計呂麻三島と徳之島では5種類の毒蛇がおり、これらの毒蛇の中で咬傷も多く致命的なものはハブで、抗ハブ毒血清のみが造られているが、他の毒蛇にたいしては造られていない。しかしヒメハブはハブと毒が似ている部分があるので、ヒメハブ咬傷にたいしても抗ハブ毒血清を使用することがある。
2,"ハブ咬傷はハブ毒の中毒症である。"
中毒に対しての治療の根本は一に体内よりの排泄、二に中和剤の使用。体内よりの排泄としては咬傷直後に毒を口で吸い出すことや切開などがあたり、中和剤としては抗ハブ毒血清が現状では唯一のものである。一刻も早い使用が望まれる。しかし完全な中和剤ではない。
抗ハブ毒血清の使用はショックや血清病の併発の可能性がある。同一人の数回の使用は併発の危険が高くなるが、ショックに対する準備を十分に行い、血清を使用している。(表
以前に検討した79人の内1人がショック状態で搬送されてきた。ショックの原因として疼痛によるものかハブ毒による心毒性によるものかは不明であったが、血清を1バイヤル(本)静注することで事なきを得た。ハブに咬まれたかどうか不明でも毒が多く入っている場合は診察・治療だけでハブ咬傷と診断できる。それは疼痛及びやや硬い腫脹(はれ)や切開による黒ずんだ筋肉の確認による。歯牙痕があっても上記症状がない場合や極めて僅かに注入されたと診察された場合は血清は使用せず切開のみ行なう。
3,"応急処置"
昔より先人の知恵として毒が入った場合、同部位の傷口を口で吸うことが勧められている。ハブ咬傷でも口で吸い、毒の体外排泄を行うことが素晴らしい初期治療と言える。咬まれたらまず毒を吸いながら、できればハブを確認し、毒を吸いながら咬傷部位の中枢を結紮するものを探し、結紮する。できれば救急搬送中も吸いながらまたは吸わせながら運ばれる。救急車の中には口の変わりになる吸引器が用意されている。(写真6)
口で毒を吸い出すと、齲歯などがある場合にそこから毒が体内に入ることが懸念されるが、さしつかえないと言われている。咬傷を受けた本人はすでに毒が入っているので全く心配する必要はない。ハブの専門家に聞くと、時々誤ってハブ毒を嘗めることがあるが特別のことは起きないそうである。これは仮説であるが唾液中の蛋白分解酵素がハブ毒の一部を無毒化する作用があるのかもしれない。
4,"結紮"
  結紮についてはcompartment syndromeという概念がひろまってから、世界各地でいろいろ検討されてきている。しかし今だ結論はでていない(表6)
静脈の結紮はコブラなどの神経毒のものには有効であるが、ハブなどの出血毒(細胞毒)のものに対しては動脈、静脈の緊縛が有効であると言われてきていたが、最近では動脈、静脈の緊縛は有害であるという発表もある。しかし搬送時間が数十時間かかるためであり、搬送時間が1時間以内前後の奄美大島では特に問題はないと考えている、20分前後で緊縛を緩めることで解決できると経験的に考えられる。最近の文献でもリンパ流の遮断は有効であると言われている。
しかしリンパ流のみの遮断は緊急では行えないが、Monash法が推賞されている。Monash法とは板状の厚い布数枚で咬傷部位を包み包帯で巻く方法である。Monash法を用い圧が50mmHgであれば、脈管圧2.3mmHgのリンパ管の遮断ができると発表されている。
5、(図5)は我々の緊急来院時の治療マニュアルである。
ハブ咬傷が確実のものと、ハブ咬傷が疑われ臨床症状の強いもの、ヒメハブ咬傷で臨床症状の強いものなどには抗ハブ血清を1?2バイアル(本)静注します。以前は腫脹の近くの中枢よりの正常部位に血清1バイアルを数カ所に分けて筋注していたが、これはハブ毒が組織間隙及び筋膜に覆われた筋肉内に広がって行くので、抗ハブ血清を直接ハブ毒と接触させ腫脹の中枢部への進行を阻止する目的で行なわれていた。臨床家の間では賛否両論がある。普通手足に腫脹がある場合軽く挙上しますが、ハブ咬傷の時は腫脹の進行が停止するまでは水平をなるべく保ち、腫脹の進行が停止したら軽度挙上します。咬傷が疑われるものも含み全てに切開や筋膜切開を行います。解剖学的な位置により筋膜切開が充分に出来ないものや創部の汚いものには抗破傷風グロブリンや破傷風トキソイドを使用しています。以前調べた79名中1名に破傷風の合併がみられた。こういう症例もあるので、咬傷後は1週間から2週間の間、我々も咬傷を受けた本人も経過観察を注意深くしなければならない。
5,現在臨床治療として以下のことを試みている。抗ハブ毒血清も全ての酵素に作用し解毒する訳ではないので、ハブ毒を今まで以上に体内より排泄する事で、具体的には心臓に負担が掛からないように大量の点滴を行い、筋膜切開部より滲出液を増加させハブ毒の排出に努める。咬傷場所によっては器具(ハドマー)を使い洗濯物を絞るようにハブ毒を絞り出したいと考えている。
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];最後に
 終わりにあたり現状の問題点を考えると死亡率は0に近づくほど減少した。しかし後遺症として機能障害のあるものや不具者は少なくなったが、相変わらず発生している。これはハブ毒の筋の壊死作用が全て原因である。今使用している血清では生命はとりとめるも筋肉の壊死作用に対しあまり効果はない。乾燥はぶウマ抗毒素の使用量と質(抗毒素の内容)に問題がある。もっと多くのハブ毒の酵素に中和作用のある血清の開発が望まれる。筋膜切開は100年前の明治時代より変わってはいない。毒の体外排泄を促す新しい方法、例えば持続透析とか、管(くだ)を挿入しての持続洗淨などいろいろなことが考えられるが。将来に期待すれば、いまの乾燥はぶウマ抗毒素より以上に効果があり、そして副作用のない解毒剤・中和剤・拮抗剤の出現である。その一つとしてハブ毒阻害因子(ハブ毒インヒビター)の応用開発に大いに期待を持ちたいと思う。
 この論文執筆にあたり、資料提供や戦後の治療について教えていただいた奄美観光ハブセンターの中本英一氏、元日本蛇族研究所の沢井芳男先生、奄美大島在住の故朝沼勇雄医師に感謝申し上げる。
上記「図」「写真」「表」等は「救急ハブ」スライドを参照下さい。 救急ハブ
参考文献、資料 他
伊東 順七
『飯匙蛇咬傷の予防法及び救急療法に就いて』 昭和5年   
沢田 芳男
『the SNAKE』 Vol.5, no.1, 1973年
福島 英雄
『蛇咬傷』 外科診療 六法出版
佐々 学、他
『奄美群島におけるハブ咬傷の疫学』 日新医学 第43、9号 昭和31年
内山 裕
『ハブに関する研究』 鹿大医誌 第10巻、4号 昭和33年
三島 章義
『ハブとその被害及び対策』  昭和36年
小此木 丘
   『奄美大島におけるハブ咬傷について』 1969年 海老沢 功
『主として血清病に関連して』 現代医療 5:803、1973
深見 征治
『蛇毒注射による局所病変の定量的研究』 the SNAKE,Vol.10 1978年
外間 善次
 『ハブ Trimeresures flavoviridisの牙咬に関する実験的研究』the SNAKE,Vol.10 1978年
川村 善次、他
『1983年の奄美大島におけるハブ咬傷について』 昭和59年
嘉陽 宗俊、他
『ハブ咬傷による Intrinsic plus 拘縮の病態と治療法』 琉大保誌 3(3) 1981年
井上 治
  『ハブ咬傷における全身性中毒作用および咬傷部の
 局所病変についての実験的および臨床的研究』 新潟医誌 第102巻5号 昭和63年

松村 千之(鹿大一外科)
『ハブ咬傷患者に関する臨床的研究』 医学研究 第54巻2号 昭和59年
山田 一隆(鹿大一外科) 
『ハブ咬傷の治療』 救急医 第6巻 1982年
森永 敏行(鹿大一外科) 
『ハブ咬傷にたいするミラクリッドの効果』 MRC研究会 昭和53年
医療法人 碧山会 ASANUMA CLINIC         HTTP://WWW2.SYNAPSE.NE.JP/HEKIZAN/

hekizan@po3.synapse.ne.jp