Fother & Brothers

 

 

☆その1☆

 

 海鳴りがする。
 海のそばに建てられた一軒家。あたりは見渡す限り不毛の荒野の広がるエスタ大陸南端だが、家の持ち主はその気になれば宇宙までも行ける超高速飛行艇を持っているので、何ら不便はない。
 その家の前で、短く切りそろえたブロンドを潮風に吹きさらされて、立ちつくす青年が一人・・・。

 サイファー・アルマシー18歳。
 彼は悩んでいた。
 家の玄関前を、行ったりきたりして真剣に悩んでいた。
(チッ・・・あいつに頭下げるのか)
 さっきから呼び鈴に手を伸ばしかけては引っ込め、うろうろと落ち着きなく歩き回っているサイファーである。
(なんで「魔女と騎士」の主演俳優が、よりよってアイツの父親なんだ。全然似てねえぞ、ちくしょう!)
「魔女と騎士」・・・それはサイファーが子供時代、リバイバル上映中の映画館にもぐりこみ、10回以上繰り返して見た映画である。
 窮地に陥った美しき魔女が、勇者と出会い、護られながらいつしか愛し合い幸福をつかむ、そんなありきたりな内容だった。だが当時10歳だったサイファーの目には、ガンブレードを携え颯爽とした「魔女の騎士」の姿が、自分が将来目指すべき理想の男に映ったのである。
 その姿に憧れて「魔女の騎士」を目指した。武器もガンブレードを選び、構えまでそっくり真似して夢を追いかけた。
 実際にやってみて夢と現実のギャップを知り、夢破れた今でも、心のヒーローは変わっていない。
 その騎士を演じた主演男優が、エスタ大統領ラグナ・レウァールその人だと知ったのは、事件収束後、ごくごく最近のことである。
 そしてその息子が、誰であるのかも・・・。

 複雑な気分を抱いて、サイファーは大きくはないが趣味のいい造りの家を見上げた。
(くそっ、スコールの野郎・・・! 17歳で家持ちとは、いいご身分だぜ)
 そう、ここはスコール・レオンハートの自宅前である。
「魔女退治のご褒美」プラス「ちょっと早いけど卒業祝いに」と言って、父親であるエスタ大統領からプレゼントしてもらった家である。
 ラグナは一緒に暮らしたがったのだが、思春期を迎えている息子が一人暮らしがしたい、と言えば、その自立心を尊重しつつ承諾せざるを得なかった。なんといっても、17年間連絡もなしにほっておいた負い目がある。
 それで、「誰の邪魔も入らない静かなところ」という息子の希望を叶えてやったというわけだ。
 ついでに「海の見える部屋」があってさらに大きめのベッドと風呂がついてれば言うことがない、というわがままな注文に、明らかに別の誰かの教唆を感じないでもなかったが、物わかりのいい父親を演じられることに心底満足しきっているラグナにとって、そんなことはどうでもよかった。
 かくして、SeeDの任務からも一時解放され、卒業式を待つまでのあいだ休暇を許されたスコールが(たまに訓練には出ているようだが)自由気ままな生活を送っているのが、この一軒家というわけだ。
(えーい、考えてもはじまらねえ!)
 とっくに決心は固めて来たのだ。サイファーは意を決して呼び鈴を押した。

      ピンポン

(しかし、何から言やあいいんだ・・・・)
 まだ悩んでいる。目的ははっきりしているのだが。
「ラグナ・レウァールのサインくれ」
 その一言を言うために、わざわざこんな地の最果てまで来たのである。
 スコールのコネを頼るまでもなく、自らエスタを訪れることも考えた。が・・・
(どっちにしても、ヤツには謝っておかないとマズイだろう、な・・・)
 いままでのいきさつを考えれば、当然と言えば当然である。
 謝って済む問題でもないような気がするが、元凶である未来の魔女を倒して、すべてが万々歳の時勢の中、サイファーのことも「魔女に操られていた」ということで、犯罪者扱いは免れているようだ。
 もっとも、どこまで正気を失っていたのかは、当人にもよく分からなくなっているのだが。
 とにかく、今なら「ゴメン」で済ましてしまえる。ような気がする。というか、今このタイミングを逃すと、一生気まずいことになるというのは、サイファー自身よくわかっていた。
(遅いな)
 ひょっとして留守か、と落胆と安堵の入れ混じったような気分で肩の力を抜いたとき、玄関のドアが開いた。

「!」
 顔を見るなり、ガンブレードを構えかけるスコールに対して、サイファーはあくまで冷静な態度を努めつつ、話がある、ここでバトる気はさらさらない旨を宣告した。
「・・・何の用だ」  
 ガンブレードはしまわないまま、スコールは相変わらずの無愛想できいてくる。この野郎、と思いつつもサイファーが言葉に詰まっていると、
「客が来てるんだ。手短に済ませてくれ」
 俺は客のうちに入らないのか、などと分かり切ったことをきく気はおこらなかった。
 客って誰だ、ときく気も起こらなかった。玄関に女物の靴がそろえて置いてあるのをちらりと見てしまったからである。
(こらえろ・・・ここが勘どころだ)
 後ろを向いて、コートの陰で拳を握りしめるサイファー。だいぶ大人になったようである。
 すう、はあ。と深呼吸ひとつして、スコールの方に向き直り、
「スコール・・・まあ、なんだ。イロイロあったが・・・」
 ぽん、と肩に手を乗せる。他人に触られるのが嫌い(←リノア以外)なスコールが、露骨にイヤな顔をした。
「悪かったな。許せよ」
 ふう、案外言ってみると簡単なもんだな。フッ俺も大人になったぜ、とひとり勝手に感慨に耽っているサイファーの耳に、やけにきっぱりとしたスコールの返事が返ってきた。
「いいや。許さん」
 肩に置いた手を、汚いものでも払いのけるように振り払うスコール。サイファーはややリズムを乱されたものの、気を取り直して、殊勝にうつむいてみせた。
「・・・ああ、そりゃそうだろうな。俺としても、そうカンタンに許して貰えるとは思っちゃいねえよ。(ほんとか?作者つっこみ)でもこうして、謝りに来てるんだし・・・な?」
「イ・ヤ・だ」
 とりつく島もない。サイファーは半ばやけになって、コートを脱ぎ捨てるとわめいた。
「ああわかったよ!俺も男だ、覚悟は出来てる! 煮るなり焼くなり、好きにすりゃあいいだろ!」
 丸腰の証拠に両手を広げて見せるが、スコールは一向に感動した様子も見せない。引っ込みがつかないまましばらく立ちつくしているサイファーに冷ややかな視線を送った後、眉一つ動かさずに言った。
「そういえば、砂漠収容所での借りがまだだったな」
(細かいこと覚えてやがるな)
 殴り倒した挙げ句壁にくくりつけてショック電流流すのが「細かいこと」かどうかわからんが、「月の涙」騒ぎや時間圧縮云々に比べたらまあそうだろう。
「ああ、わかった。どうすりゃいい?(一発殴られるか?いやそれとも、土下座しろとかそういう・・・)」
 スコールは一歩下がって、ガンブレードを構え直した。
「じゃあ今からエンドオブハートかけるからそこに立っててくれ」
「ちょっ・・・、ちょっと待てーー!!」
「冗談だ」
(シレっとして言うんじゃねえ!冗談に聞こえねえんだよ!!)
 このままじゃラチがあかない、と思いつつサイファーは舌打ちした。しかしもう後は、泣きを入れるぐらいしか・・・いやそこまでプライド捨てたかないぞ、などと考えあぐねた挙げ句。
 開き直ることにした。
「悪かったって言ってるだろ!いいから許せこのヤロー、でなきゃ話が進まねえ!」
「ヤだね」
 それさえも、あっさり切りかえされて言葉に詰まる始末。
「スコール、お前な・・・」
「嫌なことはイヤと、はっきり言うことにしたんだ」
 あの時あんたが訓練につきあえっていうのもハッキリ断ってれば、こんな傷こさえなくてすんだのにな、と嫌味たっぷりにつけ加える。たしかに素直だ正直だ。
 こいつこんなヤツだったか、と驚きあきれながら、サイファーは眉をひそめて長年のライバルを見た。
「・・・変わったな、スコール」
 めいっぱいの皮肉を込めたつもりだった。
「ああ。リノアの影響かな・・・」
 そんなことはきいてない、というツッコミもむなしく、スコールの口元が心なしほころぶ。視線は斜め下あたりをさまよい、わずかに頬が紅潮している。ほっておくと足で砂地に「の」の字を書き始めた。
「リノアが言うんだ、思ってることは口に出さなきゃ分からないって・・・俺もこの頃そう思う。リノアはすごくハッキリ言うもんな。好きも嫌いも・・・そんなところが可愛いんだよな」
「・・そうかいい話だな。ところで、俺の頼みを・・・」
「こないだも、『わたしのこと好き?』とかってはっきり言葉にしてくれってうるさくてさ。俺は照れくさいから嫌だったんだけど、リノアが・・・」
 聞いちゃいねえ。
 そもそも何でこんな話になったんだ?そうだ俺はサイン頼みに来たんだよラグナさんに紹介してもらえればもっとラッキーみたいな気持ちでいやそりゃいくらなんでもムシがよすぎるか、そう思って遠慮してたんだそれなのにこいつときたら・・・・。
「それで、リノアが言うには・・・おい、聞いてるのか?」
 聞いてるのか、だと?
 人の話を聞いてねえのはてめえだっ!!
 サイファーの中で何かが切れた。もともと気の短い彼のこと、今までもっていたのが奇跡のようなものである。
「こんの色ボケ野郎がっいいかげんにしやがれ!!」
 リノアについての語りを中断され、スコールの眉間がぴくりと震えた。
 興奮のあまり肩で息しながらスコールに指をつきつけるサイファーもまた、すでに本来の目的を忘れ去っている。もはや頼み事の出来る展開でなくなったことは明白、しかしやばい雰囲気は感じつつも、走り出したら止まれないのが彼の性分である。
「だいたいリノアは俺が先に、」
 そこまで言った瞬間、スコールの周囲が赤い光に包まれた。
「エンドオブハ・・・」
「俺が悪かった!!」
 とっさに右手のひらを前に差しだし、制止のポーズを取るサイファー。
 と、見せかけて、スキをついてファイア一発!(いつもの手)
「!」
 敵がひるんだすきに、猛ダッシュで逃げ出した。何の装備もしていない状態でエンドオブハートを食らってはたまらない。
 あっけにとられたスコールが見ている間に、サイファーの姿は見る見る小さくなってゆく。
 やがて豆粒ぐらいになったサイファーの声が、潮風に乗って聞こえてきた。
「スコーーーーール!お父さんによろしくなーー!!」
(おとうさん?)
「あいつ、何しに来たんだ・・・?」
 つぶやくスコールの耳に、家の奥からリノアの呼ぶ声が聞こえてきた。瞬時にサイファーのことは脳裏から消え去り、(なんだよ、また「ハグハグして」とか言うのか?)などと自分の願望丸出しのことを考えながら、いそいそとドアの中へ消えてゆく青春小僧17歳であった。

                                                          (つづく)


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     うみゅ・・・スコール「偽」ですねこりゃ。(−−;) おまけにサイファー・・・。好きなキャラこそいじめたくなるのさ、許せ。
     文章がヘボヘボ&読みにくいって苦情はご遠慮下さい。本人、よくわかっておりますので(爆)

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