「この作品の何処に橋がありますか?」 これは当館を訪れた方の8割方がこの質問を我々に投げかけてくる。

この作品は、モネが1899年から1905年にかけてティムズ川に立ち込める霧の効果を研究するため 訪れていたロンドンのティムズ川河畔にあるサヴォイ・ホテルで描かれた作品の一つである。

このホテルに滞在中彼はこのウォータール橋の他ロンドン国会議事堂霧を貫く陽光(パリ・オルセー 美術館蔵)など今日一連の霧のロンドン作品と呼ばれている絵画を多く描き残している。

モネのテーマそれは対象から反射してくる光の波動が空気を通してどのように伝わるかを描き出すこと であったと言われている。そしてそれには霧や霜の様に水蒸気を含んだ空気が最も必要であり、 これらの気象条件を満したロンドンはうってつけの場所といえる。

あまりにも朦朧とした作品ゆえ、何処に何が描かれているのかそれを一瞬で見分けるには難しく、 まるで騙し絵を見る思いのするこの作品だが、静かに目を凝らすと霧の乱反射によって幾重にも色を 変える川面・行き交う小船そして橋これら全てがノスタルジックな印象を与える作品といえる。

『ウォータールー橋』クロード・モネ
1840年生−1926年没。86才。
油彩・キャンバス・65.0×82.0cm
《参考文献》 山形屋画廊図録フランス絵画名作展 アサヒグラフ別冊1988/10モネ
東京国立西洋美術館モネ展1982
レゾネ小学館世界美術全集 モネ平凡社世界の美術 モネ他
朝日新聞鹿児島版 「うちの収蔵品」オリジナル原稿 より
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