平成17年度鹿児島県大学図書館協議会第1回講演会記録


                                                           鹿児島県大学図書館協議会研修委員会

  テーマ : 大学図書館職員の専門性とキャリアパス

  講 師 : 笹川 郁夫(東京大学附属図書館事務部長)

  日 時 : 平成17年11月10日(木) 14:00〜17:00

  場 所 : 鹿児島大学附属図書館5階AVホール

  参加者 : 36名


概 要
今年度は、「大学図書館員の専門性とキャリアパス」というテーマで講演会が開催された。
講演の要旨は以下のような内容であった。

1. 日本の大学図書館 ―欧米との違い―
 ヨーロッパでは紀元前4世紀頃から図書館なるものが存在していた。17世紀頃には大学
図書館が設立されている。日本では、1877年東京大学法理文学部に図書館が設置され、
それが大学図書館と呼ばれた最も早い例である。ただし、大学図書館における学生の為の
「学習図書館機能」はなおざりにされてきた。米国では、1949年にハーバード大学図書
館が本格的な「学習図書館機能」を作り始める。日本は、遅れて1966年に初めて大学図
書館施設計画要網で機能を提示した。 また、ハーバード大学は図書館が設立されてから学
部が設置されたが、日本では学部が設置されてから図書館が設立されている。

2. 大学図書館の意義
  大学図書館は、管理機構ではない。大学図書館とは、人類の文化遺産としてのさまざまな
情報の記録物を収集、蓄積、継承して、これを新たなる文化創造の発展のために利用・提供
するという、きわめて重要な社会的役割を担う組織・機関である。それと同時に、大学にお
ける学習・教育・研究に必要とされる「場」の提供や図書館資料を収集、保存し、それを教
員、学生などの利用者に提供する。大学にとってなくてはならない、空気のような存在なの
が図書館である。
 また、大学図書館は資源共有の理念のもと国内外の大学図書館間において学術情報の相互
利用を推進することも目的として掲げている。当時、外国との相互利用(ILL複写サービス)
を設置するにあたって、約700万の資金がかかった。現在は、48館の外国図書館と日本
の図書館がつながっている。

3. 新たな大学図書館のミッション
・高度情報システムを使った情報共有機能、情報探索機能の構築。
・諸機能を駆使して必要とされる学術情報資料を提供。
・学ぶことへの障壁を除去し、学習教育活動に必要な場を提供。
・学内全ての学生に対して自己学習と総合的教養習得の場を提供。
・主題関連視聴の収集・保存。
・資料の維持。  
資料について、大学図書館の資料は大きく分けて紙媒体とデジタルの2つがある。
最近はデジタル資料のことばかりが話題に出てくるが、紙媒体の資料のことも考えなくてはな
らない。紙媒体は古くなってページが破けたり色褪せたりする為、デジタルに比べて保存方法
が難しい。その為日本の文化が維持できなくなる。
 学習・教育・研究・情報環境の充実強化を図る為にも、資料の維持が必要である。これらの
ことを行って、学生・教員の活動を支援し、学問研究の多様化・学際化 を支援する学習図書
館機能の中心的役割を果たすべきである。
 
  
4.大学図書館員の位置づけ・大学図書館員の専門職としての位置づけ
 図書館員に関しては、これまでは司書制度だけが唯一の位置づけとされてきた。
事例として、国立大学の図書館職員は公務員人事制度の枠組みの中、教員主体の管理体制などの
下で十分に図書館職員としての専門性を開発することができず、サービスに反映することができ
なかった。
 しかし、最近になってこれらは大きく変化してきている。大学図書館職員の人事システムにお
いて、図書館職員の職は学術情報の収集・管理・提供および発信を担当する専門職として明確に
位置づけされるようになってきている。これまで特に国立系では図書系職員と呼ばれていたが、
その職務は図書や雑誌の管理に限らず、書誌情報管理、情報検索などに広がっているので学術情
報系と呼称するのが相当である。
 また、従来の図書系職員は、ジェネラリストとして採用され、どのような種類の職務でも対応
できることを前提としてきた。今後は、これを前提としつつも資料の種類(特別の外国語資料や
漢籍・古典籍など)、主題(各学術的分野)、業務の種類(サーバーやDB構築管理など)といっ
た領域で特別の知識や技術を持ったスペシャリストとしての育成が重要である。

5. スペシャリストについて
 ―キャリアパス計画の立案―
・専門職(スペシャリスト)としての位置づけをどうするか
〇どういう専門性があるのか整理し、明確化を図る。
・新たなる理念をつくらなければならない
・人事ルールの明確化をしなければならない
〇いくつかの道を作らなければならない。
将来、マネジメントを目指すスペシャリストもいるので、その為のサポートが必要。また、特定分
野(→例えば人文社会系、自然科学系、システム系など)に進みたいスタッフがいた場合、スタッ
フが将来目指すものをマネジメントが汲み取らなければいけない。
・専門性を見極めるための具体的方策
〇ヒヤリングを行う
・活動調書提出
    内容:@詳細活動記録 何をしてきたか
       A著者、論文など
       B参加各種委員会及びプロジェクト
・他のスタッフからの意見聴取
  などが挙げられる。
  スペシャリストへの応募は自分でできる。
  認められなかった場合、異議申し立てもできるようになればいいと思う。
・能力業績の評価について
〇1つの例として、論文を提出→昇給というような制度をとった方が良い。
・他の分野への経験の道
〇国際、情報関係との交流可能ポストを作る。
・他の機関との交流
〇スペシャリストのステップアップ
・採用
〇改良→欲しい人材のイメージを明確にし、公表
〇途中採用→選考採用→能力のある人の採用←全学との歩調
〇業務委託or人材派遣も考慮
〇定年後の再雇用も考慮
・研修
〇基本業務研修(共通業務)→定期研修→詳細に(全職員に徹底)
〇研修への参加は希望による参加をプランニング
〇資格の取得→個人での資格(シスアド、簿記・・・)
〇大学が資格取得を嘱望する場合は大学負担
 従来のジェネラリストとしての業務についての研修体制は学内外でもある程度用意されている。
しかし、今後は、スペシャリストとしての職務への対応が要求される。その為、スペシャリストを
育てる為のしっかりした研修制度をつくることが必要になってくる。
 まず例えば、学習・教育・研究機能といった各大学の特徴との関係強化を図る。そして、各主題
領域の資料や情報について、各研究領域から研修機能を提供してもらう。
 ほかに、地域ブロックでの共同研修作業を行ったり、図書館業務の国際化に伴う海外機関での研
修を行うことも必要である。
・表彰制度
公に認められることで、業務のスキルアップ
〇自分で(スペシャリストへの)進路を考える
→表彰制度は上司が聞く機会をつくる仕掛け
上司とスタッフのコミュニケーションが大事である。

6. 図書系職員のあり方
図書系職員の位置づけ 〜3つの視点〜
1)職種 2)分野 3)役職
から見ることができる。
図書系職員の職種
1)資料受入係 2)資料整理係 3)利用者サービス係 4)情報システム係 5)総合係
  の5つに分けられる。
専門職としての知識と能力が必要である。
@ 資料選定に関する知識能力
A 資料の購入に関する知識能力
B 資料の分類に関する知識能力
C 資料の目録に関する知識能力
D レファレンスに関する知識能力
E 情報探索技術に関する知識能力
F 図書館情報システムの設計に関する知識能力
G 情報リテラシー教育に関する知識
H 資料保存のための知識能力
I 国際的情報交流のための語学力
J 書誌学全般の知識能力
K 資料に係る著作権法の知識能力
L @からKまでを包括した図書館経営能力
 これからの大学図書館運営は、新たな大学図書館運営に必要なサービスの事業の展開や将来構想
立案能力を持った大学図書館の管理職(部課長)が必要不可欠である。
また、少数精鋭を踏まえ、専門職として高い素質を持ったスタッフの育成・管理が必要となる。

7.今後の大学図書館の職制
 図書系職員が専門職として位置づけられるにしても、その中で一定の経験年数と年齢及び能力に
よって役職を設けることが不可欠である。役職には、ライン的役職とスタッフ的役職があるが、あ
る部分混在せざるを得ない。ラインの役職は、ポストとして設ける。係長は厳選し、最低限の数と
する。スタッフの役職は、次の3つとし、個人単位の役職とする。
専門員 / 専門職員 / 担当主任
役職への登用は、本人の志望と推薦によって行う。

8.スタッフ職の位置づけと条件
〇専門員、専門職員、担当主任の条件。
 特定の職種で担当分野を特定し、かつスタッフとしての能力をもつものに、ポストとは関係なく、
個人として認める。
―専門員、専門職員―
 専門員、専門職員は、全図書館・室の特定の職種・分野にかかわる業務の支援ができるとともに、
後継者等を教育・指導ができる者とする。
両者の違いは、そのカバー範囲の違い、教育・指導レベルの違い、経験年数、能力等を判断した結果
とする。
―担当主任―
 担当主任は、特定の職種・分野にかかわる業務に精通しているものとする。

9.大競争時代に組織のキーマンとして要求される能力。
 これからは、与えられた処理をするのではなく、現場(マーケット)から課題を見つけ出し、読み
とる能力。更に課題を処理するにあたって制約条件を変えたり、裏読みして行く能力が必要。
最後に、教員と学生のために何が出来るかを忘れないことが大切である。