テーマ : 大学図書館が実施する学習・教育活動の支援
― 米国のアーラム・カレッジの取り組みを中心に ―
講 師 : 長澤 多代(長崎大学大学機能開発センター)
日 時 : 平成18年1月26日(木) 14:00〜17:00
場 所 : 鹿児島国際大学附属図書館4階AVホール
参加者 : 36名
概 要
今年度は、「大学図書館が実施する学習・教育活動の支援
― 米国のアーラム・カレッジの取り組みを中心に ―」
というテーマで研修会が開催された。研修の要旨は以下のような内容であった。
第1部.
→1.大学図書館が実施する学習支援の枠組み
→2.ファカルティ・ディベロットメントの基本的な枠組み
→3.米国における大学教育と図書館の動向
1. 大学図書館が実施する学習支援サービス
「学習支援サービス」とは、印刷メデイアを利用したサービス(ポスター、しおり、サイン、パス・ファインダー)、
グループ形式の指導(オリエンテーション、図書館見学ツアー、学科関連指導、独立学科目)のことである。
⇒大学図書館が実施する学習支援の枠組みは以下のようになっている。
日本図書館協会の図書館利用教育委員会が作成した図書館利用ガイドライン。
(目標のレベル) (主な方法)
●印象づけ → ポスター、パンフレット、サイン
[利用者が図書館の役割・情報利用技能の重要性について認識することにある]
●サービス案内 → オリエンテーション、図書館ツアー
[利用者が施設・設備の配置、検索ツールの利用法、図書館員による援助・協力を受けられるということ
を理解することにある]
●情報探索法指導 → レファレンス指導、学科関連指導
[利用者が情報検索の意義、検索ツールの利用法、情報検索の原理、レファレンスサービスの利用法について修得する
ことにある]
●情報整理法指導 → レファレンス指導、学科関連指導
[利用者が情報の加工、記録法、整理法、ブレインストーミングなどを理解・修得することにある]
●情報表現指導 → レファレンス指導、学科関連指導
[著作権の情報倫理、レポートや論文の作成法、情報発信、プレゼンテーションの技法について理解・修得することにあ
る]
2. ファカルティ・ディベロップメント
「ファカルティ・ディベロップメント」とは、「教員開発(FD : Faculty Development)」のことである。授業観察、コン
サルティング、ワークショップやセミナーを行う教員が、その内容の向上を目的とする組織的な取り組み。
⇒ファカルティ・ディベロップメントの基本的な枠組み。
FDにはいろいろな形があるが、今回紹介しているものは基本的な枠組みである。
FDは、以下の3つから成る。
「教員開発 (FD)」
「教育開発(ID : Instructional Development)」
「組織開発(OD : Organizational Development)」
上位のFDと下位のFD・ID・ODとなる。
FDはスタッフ・ディベロップメント(SD)との関係も重要になる。
● ID ・・・コースやカリキュラムのデザイン・実施・評価の内容の向上を目的とする取り組み。
具体的には、
・コースやカリキュラムをどうデザインしていくか
・それをどう評価していくのか
・カリキュラムに、情報や教育スキルをどう組み入れていくのか など。
● OD・・・大学運営陣を対象にした組織改善の活動。
具体的には、
・大学経営陣や教員とのワークショップを実施
・学長や学科長を対象とした組織改善に取り組んでいく など。
● SD・・・米国では図書館員など教員以外の職員の施設開発のことを指す。
FDは、学生の学習活動を活性化させる為にあるようなものである。
教員は、学生が積極的に学習するような授業のしくみを理解し、作成することが重要となってくる。
それをするにあたって図書館は、図書館関係者・教員に何が求められているか、大学がどのようなサポートをしているのかを
知り、その上で学習支援や教育支援をしなければならない。
ちなみに米国では、1970年代からFDが重要だと指摘されている。
日本では1990年代からである。
3. 米国における大学教育と図書館の動向
⇒米国の大学教育と図書館
|
大学教育 |
図書館 |
19C前半まで |
全人教育(英国の影響)
古典的カリキュラム
暗誦中心の授業 |
図書館は大学の飾り
|
19C後半 |
科学の重視(ドイツの影響)
科学中心のカリキュラム
講義、討論、ゼミナールの導入 |
コレクション拡大
図書館利用の講義科目 |
1970年代以降 |
学生志向の教育(学生運動)
学習方に関する科目
討論、卒業論文の導入 |
多様な利用教育の実施
教員への支援 |
〇米国の大学教育と図書館→1963年から19世紀半ば
「大学教育」
・ イギリスの影響のもとに大学が創設される。
・ 教育目標:秩序に従う学生を育成すること。
・ 授業 :ラテン語の教科書を暗記して読む、など。
「図書館」
・ 蔵書は偶然的な寄贈に頼る。
・ 開館時間は週に数時間のみ。
・ 貸出しは禁止されている。
〇米国の大学教育と図書館→1870年代から1890年代
「大学教育」
・ ドイツの大学の理念や制度が導入される。
・ 教育目標:学生を知的に訓練すること。
・ 授業 :講義法、討論法、ゼミナールによって進められるようになった。
「図書館」
・ 蔵書が拡大され、目録法が整備される。
・ 開館時間の延長。
・ 指定図書制度や図書館利用の講義が行われるようになった。
〇米国の大学教育と図書館→1960年代から1970年代
「大学教育」
・ 学生紛争の中で、学生中心の教育が求められる。
・ 教育目標:学生の学習スキルを向上させること。
・ 授業 :講義だけでなく、討論や卒業論文が導入される。
リーディング・アサインメンツの導入。
「図書館」
・ 図書館利用教育の充実・発展。
・ 全体的な図書館団体による支援が見られるようになった。
第2部.
→学習支援サービスの内容と方法
第1部の「大学図書館が実施する学習支援の枠組み」詳細説明。
ポスター |
広告や宣伝、イメージアップのために使われる1枚物の大きな印刷物。
ポスターの種類は2種類ある。
@イメージポスター:図書館の存在をアピール
A告知ポスター :特定のイベントの日時と場所を広く伝達 |
サイン |
必要とするところやものへ人を導いたり、ものの存在を知らせる為の案内。
サインの種類は3種類ある。
@誘導サイン:人を誘導
A定点サイン:ものの存在を提示
B説明サイン:機器の使いかた、リクエストの方法など |
パスファインダー |
「道標」という意味。特定のテーマに関する資料や情報を系統的に収集する手順をまとめた1枚物のリーフレット。
情報源だけでなく、探索の手順も提示する。 |
オリエンテーション |
図書館の施設とサービスの紹介。
対象は新入生、新任教職員、非常勤の教職員。
図書館の便利さ、気軽さ、快適さ、図書館員の専門性を印象づける。 |
図書館見学ツアー |
利用者を図書館に案内しながら、利用できるサービスについて説明したり、館内サービスのポイントを案内。
レファレンス資料の紹介、施設・設備の利用法。OPACの検索演習など。
1グループあたりの人数は最大15名。 |
学科関連指導 |
ある学科目の学習・研究の過程に必要とされる情報の探索法、整理法、表
現法について説明する。 (卒業のためのゼミ・ガイダンスなど) |
独立学科目 |
カリキュラムに設定されている情報リテラシー関係の科目。
内容は、分類法、レポートや論文の作成法。演習が中心になる。
しかし、導入が困難である |
『学習支援全体の注意』
・ 詰め込みすぎない。
・ 面倒くさいという印象を与えない。
・ ポイントをおさえた簡潔な指導をする。
・ 「あとのことはレファレンス等でしよう」というわりきりが重要である。
第3部
→アーラム・カレッジの事例
〇「アーラム・カレッジ」の説明
・ インディアナ州リッチモンドに1874年に設立
・ 教養カレッジ
・ Friends会が母体
・ 学生の選択度が高い
・ 学生数 約300名 / 学年
・ 教員数 約 85名
→カーネギー大学分類
・ 学位授与大学
研究大学T、研究大学U
大学院大学T、大学院大学U
・ 総合大学
総合大学T、総合大学U
・ 教養カレッジ
教養カレッジT、教養カレッジU
・ 2年制カレッジ
・ 専門大学
●「アーラム・カレッジ図書館」の説明
・ 1847年に設立
・ 地上2階・地下1階
・ 演習室、支援用スペース
・ 図書館員はAdministrative Faculty
・ 図書館員は図書館内に個室をもつ
・ 大学図書館が実施する学習支援のモデル
→アーラム図書館の学習支援
・ 目標:独立した学習者となる情報社会でよりよく生きること。
・ 1960年代より学習支援を推進。
図書館ツアー
図書館利用クイズ
図書館利用の講義
新入生のための情報利用ガイダンス
学科関連型指導
→アーラム図書館の学習支援:図書館利用クイズについて
・対象:新入生
・目的:図書館に関する学生の知識を確認すること
・内容:目録の読み方
・担当:図書館長
・スコアの低い学生を対象に補習。
・2002年に廃止された
→アーラム図書館の学習支援:学科関連指導@
・対象:主として、レポートや発表課題をもつ科目
・目的:学生の課題の達成を支援すること
・内容:関連する情報資源の探索法
・担当:図書館員と図書館長
→アーラム図書館の学習支援:学科関連指導A
・実施の手順
講義要綱を入手する
レポートや発表課題をもつ科目の教員に連絡をとり、シラバスを入手する
必要な情報資源を検討する
教員との話し合い
科目用のWebページを作成する
クラスで説明する
→アーラム図書館の学習支援:学科関連指導B
[利点について]
指導内容や方法にあった支援ができる(オーダーメイド型)
カリキュラムの改定や学内政治の問題を引き起こさない
柔軟に対応できる
[欠点について]
全員を対象としていない
内容に重複がでてくる
教員の協力状態に左右される
→アーラム図書館の教育支援
・目標:図書館の教育支援機能を理解すること
情報資源を活用して授業を準備すること
・1970年代より教員へ教育支援を推進。
教員採用候補者との面談
新任教員への手紙
新任教員のオリエンテーション
新メディア関係のワークショップ
新教養カリキュラムの支援ワークショップ
→アーラム図書館の教育支援:新任教師への手紙
・対象:着任したばかりの教員
・目的:アーラム・カレッジでは、図書館が教育面で重要な役割を果たすことを印象
づける為。
・内容:教員が必要とするときには、図書館がいつでも支援できることを伝える。
・担当:図書館長
→アーラム図書館の教育支援:新任教員へのオリエンテーション
・対象:新任教員
・目的1.新任教員が図書館についてどの程度理解しているのかを確認する。
・目的2.アーラム・カレッジでは、図書館が教育に深く関わっていることを印象づける為。
・目的3.図書館がもつ学生の学習支援のビジョンを伝える。
・担当:図書館長
→アーラム図書館の教育支援:新カリキュラム支援ワークショップ
・対象:教養カリキュラム担当教員
・目的1.教員が情報資源や課題の設定について理解を深める為
・目的2.教員と図書館員、教員間の情報交換の場をつくる為
・内容:科目の課題や図書館員の支援について検討する
・担当:図書館員
『学習・教育支援のポイント』
・学内のニーズを把握する
・図書館員が担当する教員や学部・学科を決める
・必要な支援を必要なときに実施する
・教員への印象づけを繰り返し行う
・学生、教員、図書館員のコミュニケーションの場をつくる
・学内の行事に参加する
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