平成16年度鹿児島県大学図書館協議会第1回講演会記録


                                                           鹿児島県大学図書館協議会研修委員会

1. テーマ : 大学図書館の新しい潮流
2. 講 師 : 石井 保廣 氏(九州大学付属図書館事務部長)
3. 日 時 : 平成16年11月29日(月) 13:00〜14:30
4. 場 所 : 鹿児島大学附属図書館5階AVホール
5. 参加者 : 24名
6. 概要
今年度は、「大学図書館のパラダイム・シフト 〜図書館機能と利用者サービスの新しい可能性を探る」という
テーマで講演会・研修会が同時開催された。
はじめに石井氏にご講演いただき、講演後、研修会を行った。
講演の要旨は以下のような内容であった。

1. これでよいのか大学図書館 −どう考える外部委託−
 江戸川大学では、平成16年7月1日より図書館業務を全面アウトソーシングしている。これによるサービス
の低下は全くない。開館時間延長に即応した機動的勤務や経費の節減、発注から配架まで作業時間の短縮、利用
者の視点に立ったサービスができる。また、受託業者のレファレンスセンターの利用もできるなどの利点があり、
学生や教員からの高い評価を受けている。(文教ニュースH16.7.19)
 桑名市立中央図書館では、図書館サービスをPFI化している。PFIとは、民間企業のもつ資金、技術的能力を活
用して事業を遂行する手法である。これには、施設関係と運営サービスの2種類がある。施設関係は、民間業者が
建物の設計や資金の調達をして、これを国や地方公共団体に貸出し、毎年お金を受け取る。運営サービスは、コス
トの縮減が可能で、事業を遂行するときに発生する様々なリスクを民間業者がすべて責任を負うので、運用面から
の危険性は少ない。利用者には、開館日数の拡大や開館時間の延長など柔軟な運営が可能となった。(西日本新聞
朝刊 H16.11.9)
 北九州市では、市立6図書館10分館のうち市立図書館5館の管理・運営を来年度から民間に全面委託する計画
が進められている。委託後は、平日の開館時間を現在の午後6時から午後7時に延長し、職員の75%以上を司書
とする(現60%弱)。図書選定は、中央館もしくは市教委が行う。図書館の全面民間委託については、市民グル
ープ「北九州市の図書館を考える会」が発足し、「サービス低下、プライバシー保護などの問題があり、市民への
説明不十分である」として計画の凍結を求めて署名活動を開始した。
 全面委託は山梨県某村の公立図書館のみである。大阪府堺市でも同様に検討されたが、準備期間が難しく一年間
の凍結となった。
 公民館・公共図書館・博物館の民間への管理委託について、中教審の生涯学習分科会が行われた。図書館は、図
書館法第13条に「館長を置く」という規定があり、全面的に民間委託はできない、ということが問題になってい
る。これに対し、文科省は、第24回経済財政諮問会議で、地方自治法改正により指定管理者制度が導入されたこ
とを受け、今後は館長業務を含めた全面的な民間委託が可能であることをあらためて明確に周知した。

2.人は城(図書館) −採用と人材育成−
 国立大学法人化における職員採用の動きについて
「現代の大学は、大学自体の目的として「教育」「研究」ともに「社会貢献」を標榜することが多くなっている。
大学の社会貢献活動を支援するために、大学に附属する図書館として、どのような機能強化を図るべきかを、
(1)図書館利用者としての学外者の扱い、(2)インターネットを介した図書館資料の利用、
(3)他大学図書館や公共図書館との協力活動、の3点を中心にして述べよ。」
 これは、国立大学図書館の採用試験問題である。国立大学法人化により、図書館は人事院の公務員試験がなくな
ったため、全国で2つの地区に分けて、採用試験を行った。関東甲信越地区が1グループ、それ以外の地区を1グ
ループで行った。来年からは1グループで行うという話がある。図書館職員にとっても、受ける人にとっても今ま
でと違った環境となっている。ある大学で、他の課の人が兼任している図書館がある。民間委託に対して、図書館
職員はどうすればよいか考えるとき、「私は図書館専門の教育を受けていないから分からない」と言われても困る。
図書館職員として図書館の中で学習をして、立派な図書館を作っていく努力が必要である。
現在下記のような学習のための研修環境がある。
1)海外大学図書館調査・研究
文科省・大学図書館職員長期研修(係長相当対象で、2週間東京を中心に筑波大学と文科省が共同で行っている)
・大学図書館職員講習会(中堅職員対象)
NII  ・国立情報学研究所セミナー 
・情報セキュリティ担当職員研修
・情報セキュリティポリシー入門講座
・情報ネットワーク担当職員研修
・総合目録データベース実務研修 
・NACSIS-IRデータベース実務研修 
JANUL(国立大学図書館協議会) 
・電子ジャーナル・ユーザ教育担当者研修会(自分たちが使うための研修ではなく、ユーザーを教えるための研
修会)
・GIF(グローバルILLフレームワーク)とDDS(ドキュメントデリバリシステム)活用研修
・シンポジウム
学内・語学研修
・海外研修
2)業務毎のプランニング・プレゼンテーション研修
3)語学研修
4)初任・中堅職員トレーニング・ワークショップ及びセミナー
5)マネジメント研修(組織運営及びサービス)
6)大学・教官等との連携により図書館が目指す分野の講義・ゼミなど受講
7)図書館の方針に沿った国・民間の資格制度の受験環境整備

3.グローバル・コミュニケーション −世界的文献流通−
・著作権法から見た文献流通について
平成16年3月に図書館間に限りインターネット送信を含むFAX等による文献伝達が可能という点で国公私立図
書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会と権利者側(日本著作出版権管理システム(株)、学術著作権協
会)と合意を得た。図書館から図書館へ送信し、受け取った図書館は、印刷した時点で、必ずデータを消し、利
用者には、印刷した複製物のみを渡す。
・国立大学法人化と新たな料金相殺制度について
国立大学法人化に伴い、新たな料金相殺制度がスタートした。NACSIS-ILLからの料金相殺処理は、これまで、
国立大学間の複写料金等で行われてきたが、平成16年4月より国立、公立及び私立大学等の全てのNACSIS-ILL
システム参加館の加入が可能となった。
・韓国との国際ILL試行について
北米に続き、今年、日本4大学(東大、三重大、京大、九大)と韓国5大学で日韓ILLプロジェクトを始めた。
韓国にも国立情報学研究所のようなKERIS(韓國教育學術情報院)があり、ここが中心となっている。我々が、
ハングル文字を判別できないため、北米に比べると、件数が少ない。もっとアジアと交流しなければならない。

4.資料費と学術情報 −効果的予算の使い方−
・資料費の推移について
資料費は、文科省の大学図書館実態調査によると、平成11年頃から減少している。
運営と資料費を比較すると、運営費が資料費を上回っている。本が購入できず、運営費だけがかかる図書館とい
うのは考えられない。民間委託に負けないよう我々自身努力する必要がある。
・電子媒体による学術情報の利用について
国立大学法人における電子ジャーナルタスクフォースは、出版社との協議(価格、重複、CAP制、Walk in User、
ILL、1モデル複数価格、統計情報、サイトのカウント、サブコンソーシアム(3年間)等について)、契約状況調
査、ユーザー教育担当者研修会、電子ブックの検討、Pay per View等の活動を行っている。
・amazon.comと新たな国際流通方式
九州大学では、先生方から図書館に頼むと、書店から手数料を取られて、到着しても研究室に届くには3ヶ月かか
るので、Amazon.comからの購入してほしいとの要望があった。検討の結果、COP(生協)から購入する事になった。
COPは、オン/オフライン注文で、現地スタッフより調達でき、2週間以内に現地から送られてくる。安く購入し、
早く提供する努力が必要である。

5.一人一人の図書館経営論 −JANULアンケートを読み解く−
JANUL(国立大学図書館協議会)では、組織・機構、専門性、資金、社会連携についてアンケートをとった。
組織・機構
・館長のリーダーシップが今後必要になる。他の大学との連携もとっていく。
・館内の意思疎通
・集中化(一元化)と分散化
・研究協力部門、情報処理センターとの統合
専門性(サブジェクトライブラリアン)
・主題以外の経営運営に関わる管理業務、書誌解題、特殊資料整理、利用者教育
・専門職の公募していく
本学卒業者、民間から、管理職
・ボランティア・学生等
OBの実費支給ボランティア、世話係の負担、友の会、展示会ボランティア
資金
・民間資金
寄付金、財団法人助成、委任経理金、大学後援会、[地方自治体]収益事業
 多目的学習室・ギャラリー等の貸出、貴重書の版権、展示会図録、利用証の有料化(学
 外)、ネットによる電子化資料のオンデマンド販売、図書館グッズ、助賛金、公開講座
長崎大学図書館では、古写真を焼き付けたクリアファイルを販売したり、市民講座を開催したりしている。図書
館法では、料金を徴収してはいけないとあるが、これは、本の貸出に関することであり、今後は、図書館でもこ
のような活動が必要である。
社会連携
・社会連携
 地場産業、地域病院図書室への文献サービス、公共図書館との連携(巡回車、研修)
・企業連携
歴史ある企業の資料の保存研究、企業支援学生用図書プロジェクト、企業とのコンソーシアムによるEJ購入
・図書館友の会
 地元の企業・有識者、有料で設置

6.これからの図書館 −課題と展望−
・椋鳩十氏の子どもたちはどこへ
椋鳩十氏(長野県出身)は、鹿児島で「母と子の20分間読書」を提唱し、全国に普及させ
た功績がある。図書館のために努力すると、必ず他の人が評価してくれる。
利用者に評価していただくのは当然のことだが、経営者にも評価していただく事も必要で
ある。外部委託にならないようにそれぞれが努力しなければならない。
・鹿児島県内図書館長懇談会
文教速報で鹿児島県内図書館長懇談会について掲載されていた。
国公私立大学等図書館や公共図書館で連携とっていこうということで開催された。
・風は西から
今年1月、九州大学で文科省の方と「法人化をバネに風を西から吹かしていこう」というディスカッションが
行われた。安く購入して、早く提供する方法、広域の文献のやりとり、流通等、九州から風が吹いて、モデル
ケースの一つになるのではないかと思う。

最後に2004年5月にテレビで報道された日韓国際セミナーについて、映像による説明があった。
日韓国際セミナーの様子や九州大学附属図書館筑紫分館で導入されている自動書庫について紹介された。