広報媒体としてのホームページの可能性について
                                         鹿児島純心女子短期大学図書館 川路孝昭

1. はじめに
 情報提供活動の一つとして広報活動がある。図書館の各種サービスの活動概要や新規受
入資料を図書館だよりや館報といった類のもので案内をするケースやリーフレットやしお
りに図書館利用案内を印刷して配布するなど様々であるが、これらの多くは、紙を使用し
た活動であった。
 しかし近年は、ホームページ上で広報活動を展開する例が多く見られるようになってき
た。その理由はホームページへの期待からであると推測する。
  さて、このホームページを広報媒体として活用することについて、別紙のような北山氏
からの指摘があった。
  そこで、本稿では、北山氏の指摘を参考に広報媒体としてホームページがどの程度期待
できるかについて検討を試みることにした。

2.図書館広報とは何か
 まず、図書館の広報活動について整理してみたい。

(1)企業における広告と広報の関係
 企業の活動においては、広告と広報という二つの活動がある。
 広告は企業が、その費用を支払って、企業が生産する商品をお知らせするための活動で
ある。テレビを使った商品の広告は、その代表格であろう。一方、広報は、企業イメージ
(好感度など)を高めるため、また、企業を取り巻く人々と良好な関係を築くために、例
えば報道機関に対して情報提供を行い、それを記事にしてもらい宣伝を行う活動とされて
いる。この広報については、企業側は情報を提供するだけであり、広報のための費用を支
払うことはない。記事にして広報するかどうかは、報道機関が判断することになる。
 現代は商品名を消費者に知らせる行為だけでは他社製品より優位に立つことが困難であ
ることから、製品を販売している企業自身の好感度を高める行為、すなわち、広報活動に
よって商品の売り上げを伸ばそうと考えている。1)

(2)図書館における広報
  では、図書館の場合はどうであろうか。
  図書館を情報提供による対価で成り立つ企業と仮定する。
  図書館は、まず、収益を上げるために所蔵している資料や提供するサービスについて広
告活動を行なわなければならない。また、同業種よりも優位に立つため、広報活動をとお
して、イメージアップを図ることになるだろう。営利企業と変りはない。
  では、実際の活動はどうであろうか。
  例えば大学図書館は「学習権を資料面で保障する機関」2)としての使命を持っており、
その使命を果たす為に実施している各種サービスを学生にお知らせし、利用を呼びかけて
いる。さらに、このお知らせに加えて、図書館は学習に必要な情報を提供している機関で
あるというイメージ付けを普段から行なうことで、より一層、図書館利用が促進されるこ
とを期待している。これらのことは、日本図書館協会から発表された「図書館利用教育ガ
イドライン」でも取り上げられており、お知らせする行為だけではなく、その基本前提と
して、まず、イメージ付け普段から行なうことの重要性を指摘している。このように図書
館は「広告」活動も「広報」活動も実際に行なっている、あるいは、そのような活動の必
要性が指摘されているのだが、活動自体は一括して「広報」といった表現で言い表されて
いる。営利企業であるなしに関わらず、「お知らせ」と「イメージ付け」の活動は組織が
成り立つために必要な活動であり、したがって、図書館においても、「図書館広報はお知
らせ」するだけの活動ではなく、「イメージ付け」する活動も含まれていることを私たち
は認識すべきであると考える。

3.ホームページの役割
 では、上記でまとめた広報活動のポイントである「お知らせ」と「イメージ付け」を基
に、ホームページの特性を考えてみたい。

(1) 発信した情報が相手に届いたかどうかは確認が困難
 紙による広報活動は、テキストや図表、画像(写真等)により案内をするが、ホームペ
ージでは、さらに動画、そして音声によりメッセージを伝えることができる。ホームペー
ジは紙より、多くの伝達手段を持っているといえるだろう。
 だが、双方とも掲載された内容が広報対象者に実際に伝わったかどうかは、確認が困難
である。
  紙の場合、強制的に配布するか、来館者が目に付くところに置いておき各自の自由意志
で配布物を持っていってもらうかの方法を取るが、いずれの場合でも、受け取った紙の広
報物を実際に読んだかどうかは確認できない。
 ホームページの場合も同様である。別紙で北山氏が指摘しているようにWebサーバ上に
ホームページを置いただけでは、誰も見に来てはくれない。図書館側は、ホームページの
アドレスを周知させる必要がある。さらに、アドレスを知らせることに成功したとしても、
その後、実際にホームページを見たかどうかは確認できない。ホームページにカウンター
を置くことで、アクセス者数を知ることはできるが、カウントされた数の中には、ホーム
ページの内容を見ずに他のサイトに移動したものも含まれている。カウンターの数字は、
紙の広報物に例えるなら、配布枚数と考えてもよいだろう。
  このように考えると、ホームページは紙よりも多くの伝達手段は持っているが、その内
容が実際に伝わったかどうかを判断することは容易ではない。紙も同様に、広報内容が伝
わったかどうかの判断は難しい。
  広報活動は、その内容が伝わって始めて発行の目的が達せられる。この点から言えば、
ホームページは紙媒体を使用するよりも優れていると断言はできないのである。

(2) 広報する内容によって優位性が変わる
  次は、広報する内容によって検討してみる。
  まず、お知らせの内容が、例えば学生が欲している情報であった場合、どうであろうか。
強制的に紙を配布しなくても学生は広報誌を取りにくるであろうし、内容も確実に読んで
くれるであろう。同様に紙ではなく、ホームページで案内するような場合でも、アドレス
が分らなければサーチエンジンを使ってアクセスして情報を入手するだろう。
  では、図書館側が学生に一方的に知らせてあげたいと考えている情報の場合はどうであ
ろうか。紙であっても、あるいはホームページであっても容易にその情報を伝えることは
困難であろう。特にホームページの場合、インターネットに接続しホームページにアクセ
スするという行為が伴うため、情報を入手したいという欲望が発生していない状況下では、
成果を期待することはできない。むしろ、広報誌そのものを来館者の目に付くところに容
易に置ける、あるいは貼れる紙媒体の方が、その内容を知らせられる可能性がある。強制
的に配布する場合でも、レイアウト等の工夫次第では、情報を伝えられる可能性がある。

(3) イメージ付けの点ではホームページに期待できる
  イメージ付けの点ではどうであろうか。
  イメージは主に、図書館という建物、蔵書の構成、書架などの図書館の備品とレイアウ
ト、館員の応対等で形成されると思われる。これらは、図書館に来た際に与えるイメージ
である。図書館に来たことのない層へのイメージ付けは、主に広報活動で行なうことにな
る。この際、紙が使用されている場合は、その文章やイラスト、レイアウト、配色等でイ
メージ付けが行なわれる。
  このような状況の中、ホームページは新しい広報媒体として登場した。紙媒体では不可
能であった動画や音声による広報で、より具体的にメッセージを伝えることができ、イメ
ージ付けも期待できるようになった。
  また、さらに、ホームページ自体が学術情報そのものを提供するツールとなる点では紙
よりも優れている。従来は、紙面の都合、あるいは紙であるという制約から情報の案内だ
けで終わっていたものが、ホームページでは本物の情報に導くことが可能であり、このこ
とにより、図書館の活動を具体的に知らせることができ、情報のナビゲーターとしてのイ
メージ付けに貢献するものと期待する。

(4) 配布先は無限
  紙の広報物では、配布枚数にも限度があり、配布場所も限定される。一方、ホームペー
ジは、紙の広報物でいう配布枚数や配布場所に限界はない。ホームページは紙による広報
よりも優れているといえる。

(5) 速報性
  速報性で検討してみよう。
  紙とホームページ、どちらが早く記事にできるかという点は、担当者がいつ作成するか
ということであり、比較はできないだろう。記事の内容をどちらが先に伝えられるかとい
う点では、紙が優っている。ホームページの場合、記事が載ったことをお知らせしなけれ
ばホームページにアクセスしてもらえないという欠点がある。

4. ホームページと紙の広報は補完し合う関係
 ホームページの欠点は、北山氏が指摘したように情報を「自ら取りに行かねばならない」
という点である。この点でホームページは紙による広報よりも劣るところが出てくる。し
かし、状況は変わりつつあるように思う。糸賀氏は、「実際にアメリカの図書館を視察し
てみて衝撃を受けたのは、図書館内でパソコンの前に座りマウスとキーボードを操ってい
る人の数の多さに比べて、そのまわりの書架でブラウジングしたり閲覧机で資料を読んだ
りしている人がきわめて少ないという事実である。」と紹介している。さらに糸賀氏は
「この事実は、かつて読んだ記憶のある「ムーアスの法則」とやらを思い起こさせた。ど
の程度データにより裏付けられ、検証された法則なのか定かではないが、要するに"人は
情報を得るのに手間のかかることをしなければならないくらいならば、いっそのことその
情報なしで済ませてしまう"といった類のものである」3)と述べ、インターネット上から
の情報入手への依存度が高まる背景にも触れている。
  このように情報を入手する手段として、まずホームページを使用するという状況に至れ
ば、広報媒体としてホームページの位置付けは変わってくるのではないだろうか。ただし、
情報入手の窓口が図書館のホームページでなければならないという条件は付く。
 しかし、日本の場合、アメリカと異なり、無料で使える一次情報や二次情報が少ない。
当面は、ホームページと紙のそれぞれの広報活動で、相互の利点を生かしつつ、そして、
欠点を補完し合う形で広報活動を再構築することを考えてみた方がよいだろう。

1)図書館広報再考 : 図書館情報学研究会研究成果報告−2. 鹿児島県大学図書館協議会
   会報. 第17号, p.41-44
2)田沢恭二. 大学図書館をもっと積極的に利用しよう: 朝日ジャーナル. 1978. 4.28号.
3) 糸賀雅児. 司書は救われるのか、掬われるのか?: 図書館にとってのインターネット. 
   図書館雑誌. Vol. 94, no.11, p.894-897