■ 呼吸器に関する感染対策

 

現在、エビデンスに基づき推奨されている方法をまとめてみました。
施設によっては、そう簡単に改善できないでしょうが、最もいい方法を知っておくことは大切なことだと考えます。少しずつでも改善できたらいいですね。

1.気管内吸引について
2.呼吸器回路の交換
3.呼吸器回路の消毒
4.ネブライザー


【気管内吸引について】

気管内挿入管 や、汚染エアゾールの吸入、汚染ネブライザーの使用、 非滅菌噴霧液の使用など、感染管理の不徹底は、下気道感染症の危険因子となる。
人工呼吸治療を受けている患者が、病院感染肺炎を発症する危険性は、受けていない患者の6-21倍高く、 1日当たり1%の割合で肺炎となる可能性が増加している。

気管吸引にともなうリスクについて(APICテキスト)
  1. 気管吸引カテーテルは、微生物を下気道に押し込む。
  2. 吸引カテーテルの使用は、直接的に患者環境の汚染を 招く。
  3. 手袋について、滅菌あるいは未滅菌のいずれを使用す るべきかについての推奨はない。
気管吸引時のカテーテルの扱いについて(APICテキスト)
  1. 気管吸引は、「滅菌の1回使用のカテーテル」で「無 菌操作」を行うべきである。
  2. もし、吸引中にカテーテルの汚れを落としたいときには、減菌水を使うべきである。
  3. 使用後は注意深く廃棄すること。
APICテキスト:
Respiratory care 71:APlC text of infection control and epidemiolo- gy.APlC,USA,2000.
■日本語参考文献 浦野美恵子:ナースお助けQ&A, lNFECTlON CONTROL,10(5) :79-82.2001

気管内に使用する水は、滅菌水を使用する。水道水は非結核性マイコバクテリアやレジオネラなどが存在する恐れがあるため適さない。

気管吸引は、滅菌した1回使用のカテーテルで無菌操作することが大前提。

手順
  1. 流水と石鹸で手洗いをする。
  2. 滅菌手袋、または非滅薗手袋(未使用の清潔な手袋)を片手にのみ装着せず両手に装着する。
  3. 滅菌手袋を着用している場合は、そのままカテーテルを持ち、回しながらすばやく吸引する。非滅菌手袋の 場合は、減菌の鑷子で操作する。
  4. 途中で、吸引カテーテルを洗浄したい場合には、滅菌水を吸引(通水)し、操作を続行する。
  5. 気管吸引が終了したら、カテーテルを指定の容器に廃棄する。
  6. 手袋を外す。
  7. 流水と石鹸で手洗いをする。
患者のベッドサイドに消毒剤入りの容器を置き、カテーテルをそこにに浸け置きしておくことは、「ディスポーザブル製品を再使用する」という誤りと、「無菌レベルの維持ができていない」という二重の誤りをおかしている。


【呼吸器回路、加温加湿器の水の交換】

古いタイプであるオープン・システムを使っている場合は、1日1回、加温加湿器の容器ごと水を交換する。水は必ず滅菌水を使用する。水道水は非結核性マイコバクテリア やレジオネラなどに汚染されている可能性があるので、 絶対に使用しない。交換の際は、流水と石鹸による手洗いをし、未使用の清潔な手袋を装着する。

人工呼吸器の回路交換は、「48時間ごと以上の 頻度で交換しないこと」(CDCガイドライン)とされている。最大、どのぐらいの期間、交換しなくてもいいのかという結論は、今のところ出ていない。「回路を交換しない場合と、7日ごとに交換した場合とで、肺炎の発生率に差は認められなかった」*という報告があるのみ。

回路交換時は、事前に流水と石鹸による手洗いをし、未使用の清潔な手袋を装着して行う。終了したら、 手袋を外し、同様に手洗いをします。

CDCガイドライン *
Tablan OC,et al:Guideline for Prevention of Nosocominal Pneu- monia,CDC,1994、


【呼吸器関連機器の消毒】

器材と処理法および殺菌性製剤の分類

器材の分類
器材(例)
Spauldingの処理分類
EPAの製品分類
クリティカル
(無菌の組織または血管系に挿入する)
植え込み器材、外科用メス、針、その他手術用機器 滅菌−殺芽胞性薬品:長時間の処理 滅菌剤/消毒薬
セルクリティカル
(健常粘膜、損傷皮膚に接触[歯科用を除く])
軟性内視鏡、喉頭鏡、気管内チューブ、その他類似の器材 高レベル消毒−殺芽胞性薬品:短時間処理 滅菌剤/消毒薬
体温計、水治療タンク 中レベル消毒 結核菌殺菌性とラベル表示のある病院用消毒薬
ノンクリティカル
(無傷の皮膚と接触)
聴診器、テーブル上面、差込便器など 低レベル消毒 結核菌殺菌性とラベル表示のない病院用消毒薬

Favero MS,Bond WW:Chemacal disinfection of medical and surgical naterials.in:block SS,ed.Disinfection,sterillazation and preservation.4th ed.Philadelphia:Lea & Febiger,1991:627

人工呼吸器のチューブは「セミクリティカル器材」に分類されるので、湿式低温殺菌法、化学消毒、または加熱による「高レベル消毒」で処理する必要がある。
日本で高レベル消毒が可能な消毒剤は、2%グルタールアルデヒド(商品名:ステリハイドL20%)と0.1%塩素だが、グルタールアルデヒドは刺激性が非常に強いので、呼吸器関連機器を浸漬するために使用してはいけない。塩素は金属に対して腐食作用があるため使用できない器材もあるので注意する。
耐熱性の器材は加熱による滅菌の方が望ましい。

消毒薬による消毒後は滅菌水によるすすぎ洗浄が推奨される。滅菌水によるすすぎ洗浄が不可能な場合は、水道水ですすいだ後アルコールで洗浄して強制空気乾燥し、細菌の増殖に最適な湿潤環境をなくす。

*APICガイドライン
「これらの器材には、多数存在が許容される細胞芽胞を除く微生物はすべて存在してはならない。無傷の粘膜は通常、一般的な細胞芽胞による感染には抵抗性があるが、結核菌やウイルスなどの微生物には感染しやすい」
「消毒剤による高レベル消毒の場合、20分以上の曝露が必要」

手順

  1. 肘までの(長めの)雑用手袋、防水性のエプロンまたはガウン、マスクとゴーグルまたはフェイスシールド・マスクを着用する。
  2. 専用のブラシを使い、水道水で水洗いする。
  3. 専用のブラシを使い、酵素入り洗浄剤で洗う。内腔までよく洗うこと。
  4. 水道水でよくすすぐ
  5. 塩素ベースの薬剤(200ppm有効塩素液)に浸す。(20分)
  6. 手袋、エプロン、またはガウンとフェイスシールド・マスクを外す。
  7. 流水と石鹸による手洗いをする。
  8. 未使用の清潔な手袋を装着する。
  9. 滅菌水でリンスする。
  10. 乾燥機で乾燥させる。
  11. 手袋を外す。

【ネブライザー他】

超音波ネブライザーは「セミクリティカル器材」に分類され、人工呼吸器回路と同等に扱う。
洗浄後の器材を水周りに置くことは厳禁。緑膿菌や他のグラム陰性菌によって汚染された水のはね返りを受け再汚染の危険がある。

酸素供給に伴うリスクについて(APIC)
  1. 泡沫式加湿器
  2. マスク、カニューレ
  3. ガスライン

*「 これらの器材は、患者ごとに供給用のチューブを交換する。泡沫式加湿器は適正に使用する。正常な状況下の成人患者の場合、4リットル/分以下の酸素流量では泡沫式加湿器を必要としない」
「10リットル/分以上の流量を必要とする場合は標準仕様の非加温泡沫加湿器では間に合わず、発生した噴霧質が微生物を伝播するかもしれない」

APICテキスト:
Respiratory care 71:APlC text of infection control and epidemiolo- gy.APlC,USA,2000.



AARC(米国呼吸ケア協会)のガイドラインでも 4L/分以下の場合、加湿は必要がないとしている。

Revised by Thomas J Kallstrom RRT FAARC, Fairview Hospital, Cleveland, OH, and approved by the 2002 CPG Steering Committee. Original publication: Respir Care 1991;36(12):1410-1413.


 


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