イメージローテータ


A-ZEUS では未対応ですが、経緯台架台の固有の問題である、「イメージローテータ」の設計方法について記します。
経緯台で恒星を追尾すると、徐々に視野が回転していきます。接眼部にカメラを取り付けて長時間の露光を行うと、 まるで北極星野の固定撮影のように視野の中心に対して、恒星が孤を描くように線を引きます。これは、経緯台の欠点のひとつです。
「イメージローテータ」は、経緯台で長時間露光を可能とする目的で、この視野の回転を補正する方向に 接眼部を回転させる装置です。この装置の真髄は、望遠鏡の向きによる視野の回転スピードを知ることです。 この項では、視野の回転スピードの計算方法を考察します。

■ 「方位軸,高度軸の追尾速度」の計算式

経緯台においては、視野は常に天頂方向に対して固定されます。一方、恒星は天の北極を中心として回転するので、 (図1)の恒星S に望遠鏡を向けた時、図のθが天頂方向を基準とした視野の回転角度となります。 このθが、時角tの変化に対する増加量 dθ/dt が求めたい「視野の回転スピード」です。

■ 定義 ■
P :天の北極
Z :天頂
N :真北
S :対象星
φ:観測地の緯度
t :恒星の時角
δ:恒星の赤緯
A :恒星の方位
h :恒星の高度 (0≦h≦90)
θ:視野の方位角

球面三角△ZPS において、球面三角の性質から、
sin(90-h)・sinθ = sin(90-φ)・sint --------------(1)
sin(90-h)・cosθ = sin(90-δ)・cos(90-φ) - cos(90-δ)・sin(90-φ)・cost ----------(2)
cos(90-h) = cos(90-φ)・cos(90-δ) + sin(90-φ)・sin(90-δ)・cost -----------------(3)

この3式から、θ と h を求めます。h は(3)式から直ちに算出できます。
(1)/(2)より、  tanθ = cosφ・sint /(sinφ・cosδ - cosφ・sinδ・cost) ----(4)
これで θ求まります。 θ(0≦θ<360) の象限は、sinθの符号が(1)の符号に,cosθの符号が(2)の符号に一致することから判断します。

次に、dθ/dt を考えます。(1)(2)式の両辺を t で微分すると、
 -sinh・sinθ・dh/dt + cosh・cosθ・dθ/dt = cosφ・cost -----------(5)
 -sinh・cosθ・dh/dt - cosh・sinθ・dθ/dt = cosφ・sinδ・sint ----(6)
この(5)(6)式から、dh/dt,dθ/dt について解くと、次の解が求められる。
 dθ/dt = (cosθ・cost - sinθ・sinδ・sint)・cosφ/cosh -----(7)
 dh/dt = -(sinθ・cost + cosθ・sinδ・sint)・cosφ/sinh ----(8)
以上で、dθ/dt は求められますが、右辺から θ と h を消すことも考えてみます。

球面三角△ZPS において、球面三角の性質から、
 sin(180-A)・cos(90-h) = sinθ・cost + cosθ・cos(90-δ)・sint
 cos(180-A) = -(cosθ・cost - sinθ・cos(90-δ)・sint)
変形して
 sinA・sinh = sinθ・cost + cosθ・sinδ・sint -----(9)
 cosA = cosθ・cost - sinθ・sinδ・sint ----------(10)
(7)式に(10)式を代入,(8)式に(9)式を代入して、
 dθ/dt = cosA・cosφ/cosh -----(11)
 dh/dt = -sinA・cosφ ---------(12)

さらに、球面三角△ZPS において、着目する頂点を移動して
 sin(90-h)・cos(180-A) = sin(90-φ)・cos(90-δ) - cos(90-φ)・sin(90-δ)・cost
変形して、
 -cosh・cosA = cosφ・sinδ- sinφ・cosδ・cost
これを cosA について解くと、
 cosA = (sinφ・cosδ・cost - cosφ・sinδ)/cosh
(11)式に代入して、
 dθ/dt = (sinφ・cosδ・cost - cosφ・sinδ)・cosφ/(cosh)^2 -----(13)

dθ/dt, dh/dt とも、赤道儀における恒星時駆動スピードの倍数で示されます。

以上で、イメージローテータに与える回転速度は計算できます。 しかしながら実機においては、「視野の回転中心」「イメージローテータの回転中心」 を完璧に一致させないと意味がありません。 これは純粋に機械工作精度と調整の精度の問題で、イメージローテータを 導入するに当たっての最も高い障壁となることでしょう。


※ 角度の単位は断りのない限り「°(度)」で表記しています。

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