極軸の誤差


1.極軸の誤差が自動導入に及ぼす影響の計算方法[近似式]
赤道儀では、極軸を正しくあわせる必要があることは周知のことです。それでは、極軸の誤差が自動導入において どの程度の誤差を及ぼすか、計算方法を考察します。厳密な計算方法は、この項の後半に記しますが、 評価のためには近似式が扱いやすくなります。ここでは、極軸のセット誤差(d)が小さいものとして、まず 近似式の求め方を示します。
この近似式の解法は、相馬充(国立天文台)氏によるものです。

■ 定義 ■
# 極軸が正しくセットされていない望遠鏡を前提とする。
# 天の赤道と子午線の交点So でアラインメントし、点S に望遠鏡を向ける。
# このとき、真の座標と望遠鏡の目盛環との誤差(刄ソ,刄ツ)を求める。

P :天の北極
P':望遠鏡の極軸
d :極軸のセット誤差。離角
Hp:極軸のセット誤差。時角
So:子午線と天の赤道の交点。基準に定義
S :望遠鏡の向いた方向
H :望遠鏡の向きの時角
δ:望遠鏡の向きの赤緯
刄ソ: 赤経の導入誤差
刄ツ: 赤緯の導入誤差
とする
この 刄ソ,刄ツ が 自動導入において赤経軸と赤緯軸の極軸セット誤差の及ぼす影響となります。

(図1)において、SP=90°- δ,SP’=90°- δ’ (δが天体の赤緯,δ’が望遠鏡の目盛環が示す赤緯)だから,(図1)から
  刄ツ = δ’- δ = d・cos(H - Hp)  ------ (1)
となります。(d を小さいとして PP' 付近を平面とみなしている。)

 時角の方は少し工夫がいります。
天体 S の時角 H は図の天の赤道上の ASo の長さに等しいので、H = ASo
一方,天の北極P と望遠鏡の極軸P' はかなり近いところにあるので,時角を考えるときは 両者の大円(天の赤道)は同じものと見做せます。そうすると,望遠鏡に対する時角は BSo の長さです。 よって時角方向の補正量刄ソ というのは(図1)の AB の長さになります。
これを求めるために,まず [d・sin (H - Hp)] と書いた弧の長さから
 ∠PSP' = d・sin(H - Hp) / sin(90°- δ)
になることがわかります(P' から大円 SP に下ろした垂線 P'Q を S を極とする小円の一部とも見做しています)
sin (90°- δ) はより正確には sin (90°- δ - d cos(H -Hp)) とすべきですが,d が小さいですから, 結果を d の1次までにすることにすれば,この部分は無視できます。

刄ソ はこれに sin δ をかければ求められます(ここでもABをSを極とする小円の一部と見做しています)。 従って、
  刄ソ = d・sin(H-Hp)・tanδ  ------ (2)
が導かれます。
この (1)(2)式が、極軸のずれた望遠鏡による自動導入時の誤差です。


2.極軸誤差の影響

(1) 赤緯方向の補正量
前項の(1)式
  刄ツ = d・cos(H - Hp)  ------ (1)
より、 -d ≦ 刄ツ ≦ d となる。
つまり、赤緯方向の誤差(刄ツ)は極軸の誤差(d)を超えないことから、 あまり神経質に考える必要はない。
この誤差が最大値となるのは、H = Hp と H = -Hp の時、すなはち、天体S,天の北極P,望遠鏡の極P' が 一直線上に並ぶ時です。

(2) 時角方向の補正量
前項の(2)式
  刄ソ = d・sin(H-Hp)・tanδ  ------ (2)
この式が意味するところは、赤緯δが高くなると、加速度的に赤経方向の誤差 刄ソ が拡大されるということです。 赤経の目盛りは、高緯度になるにつれて狭くなるので、誤差が拡大される効果があるのです。
他の誤差要因、赤経軸と赤緯軸の直交誤差による赤経の導入誤差 刄ソ = d・tanδ と比較すると、 同じ d に対しては、sin(H-Hp) が掛かっているために、極軸の誤差は直交誤差よりも誤差の影響が小さいということがわかります。
この誤差が最大値となるのは、(H - Hp) = 90°の時、すなはち、天体S の位置が 天の北極P−望遠鏡の極P' の弦に対して直角方法にあるときです。

極軸の誤差はどの望遠鏡でも調整方法用意されており、観測者の意識も高いため、現実的な望遠鏡の誤差要因 として小さいものと考えられます。


3.極軸の誤差が自動導入に及ぼす影響の計算[厳密な解法]

■ 定義 ■
# 極軸が正しくセットされていない望遠鏡を前提とする。
# 天の赤道と子午線の交点So でアラインメントし、点S に望遠鏡を向ける。
# このとき、真の座標と望遠鏡の目盛環との誤差(刄ソ,刄ツ)を求める。

P :天の北極
P':望遠鏡の極軸
d :極軸のセット誤差。離角
Hp:極軸のセット誤差。時角
So:子午線と天の赤道の交点。基準に定義
S :望遠鏡の向いた方向
H :望遠鏡の向きの真の時角
δ:望遠鏡の向きの真の赤緯
H':望遠鏡目盛の時角
δ':望遠鏡目盛の赤緯
とする。
刄ソ(赤経の導入誤差)= H' - H
刄ツ(赤緯の導入誤差)= δ'- δ
であるから、H', δ'を既知としたときの H, δを求める

まず、弦P'So と ∠Q(=∠PP'So と定義) を求める。
△PP'So について、球面三角の公式から、
 sinP'So・sinQ = sin90・sinHp ----------- (1)
 sinP'So・cosQ = sind・cos90 - cosd・sin90・cosHp --- (2)
 cosP'So = cosd・cos90 + sind・sin90・cosHp ---------- (3)
(3) より、P'So を求める。象限は、 90-d ≦ P'So ≦ 90+d (dは小さい) の範囲で判断する。

(1)/(2) により、
 tanQ = -tanHp / cosd ----------------- (4)
象限は、(1)(2)式からP'So の解と右辺の符号で判断する。以下、象限の決め方は同様。
以上、(4)より、∠Q が決まる。この ∠Q を仲介して δ と H を求める。

ここで、望遠鏡の極軸から望遠鏡の向きに至る弦P'S は、P'S = 90 - δ' に等しい。

△PP'S について球面三角の公式から、
 sin(90-δ)・sin(H-Hp) = sin(360-Q-H')・sin(90-δ') -------------------------- (5)
 sin(90-δ)・cos(H-Hp) = sind・cos(90-δ') - cosd・sin(90-δ')・cos(360-Q-H') --- (6)
 cos(90-δ) = cosd・cos(90-δ') + sind・sin(90-δ')・cos(360-Q-H') -------------- (7)
(7)式から
 sinδ = cosd・sinδ' + sind・cosδ'・cos(Q+H') ------------ (8)
δは、(8)式から求められる。
(5)/(6) により
 tan(H-Hp) = -sin(Q+H')・cosδ' /(sind・sinδ' - cosd・cosδ'・cos(Q+H'))
この式から S の真の時角 H が求められる。



※ 角度の単位は断りのない限り「°(度)」で表記しています。

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