天文学的根拠 −歳差運動−


概 論
 天の北極は、地軸の首振り運動によって黄道北極を中心に約26,000年かかって1周します。 (歳差運動) 歳差は厳密には運動の加速や黄道傾斜角の変動もあり、 それら全てを極めて長い時間を対象に記述する理論は、今のところないようです。 種々の歳差要因をひとまとめにした「一般歳差」は広く用いられていますが、 加速成分と黄道傾斜角は固定した定数として扱ってあり、 ここに推算精度の限界があると考えられます。ある一定の期間のみであれば、1976年のIAU勧告に従った J.H.Lieske 他の研究者により発表された式が、厳密な表現として国際的に認められ現在に至っています。 しかし、J.H.Lieskeの歳差式を数万年単位の非常に長い期間を当てはめると、 結果は発散してしまい安定しなくなります。

推算方法
1. 一般歳差について
 歳差運動について、もっとも一般的に使われている表現は、日月歳差や惑星歳差など 種々の歳差要因を、ひとまとめにした「一般歳差」です。一般歳差の定数も、 年代や文献によってわずかに異なっていますが、コズミックサーフィンでは以下に示す、 IAU1976年の天文定数系の数値を採用しました。
(1) 一般歳差ψ=50.290966″+0.0222″T(/年)
 ここでTは、J2000からの時間経過を100ユリウス年で表した量。
(2) 黄道傾斜角ε=23.439291°
(1) 式の第2項は歳差の加速成分といわれ、歳差運動が徐々にスピードを増して いることを示します。
 一般歳差による座標の推算は下図に示す球面三角法により算出します。 なお、この推算法は東亜天文学会長谷川一郎氏により提案されたものです。

非常に長い期間の歳差運動

図中の記号は、
    α0:基準年の恒星の赤経
    δ0:基準年の恒星の赤緯
    α :座標変換後の恒星の赤経
    δ :座標変換後の恒星の赤緯
を示します。
△ PNX より、
     cosd           = cosε・sinδ0−sinε・cosδ0・sinα0
     sind・sin(ψ+θ) = cosδ0・cosα0
     sind・cos(ψ+θ) = sinε・sinδ0 + cosε・cosδ0・sinα0
△ NP'X より、
     cosδ・cosα = sind・sinθ
     cosδ・sinα = sind・cosε・cosθ−cosd・sinε
     sinδ       = cosd・cosε + sind・sinε・cosθ
以上から、α,δ を推算します。

2. J.H.Lieskeの歳差式について
 かなり難解で、私には説明しきれません。コズミックサーフィンでも、 J.H.Lieske による推算式をそのまま使用しています。
 ここらの解説は、
   「天体の位置計算 増補版」長沢 工 著,地人書館(\2,000~)
に詳しいです。


開発裏話
推算時間の限界

 歳差は、厳密には問題が複雑であり、長期間に渡り厳密に記述する理論は、今のところありません。  コズミックサーフィンでは、「長期間で安定」な式として「一般歳差」を、 「短期間で厳密」な式として「J.H.Lieskeの歳差式」を選択可能なように設計しましたが、 これは苦肉の策であったとも言えましょう。なお、一般歳差による記述でも、 約20万年を超えた過去に遡りますと、歳差が停止してしまうというおかしなことになります。 コズミックサーフィンの計算の限度は、過去と未来20万年までとしましたが、 このことが理由の一つであります。


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